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-From 6-

ANOTHER WORLD


第一章  チカラの有無 
         T
「どわぁぁっ。」
 空気中の空間が歪み、大きな穴が現れる。その穴から堵妥 飛剋、つまりオレは出てきた、というよりも落ちてきた。
 痛くは無い。むしろ気持ちのいいほどだ。そう、思ったオレは辺りを手で探る。犬の毛皮に近かった。しかし、犬にしては大きすぎた。俺の身体全体を包んでいたのだから。ではなんだろう。むくっと体を起こして確かめるべく、胴体に力を入れた。起き上がると一面に広がるのは先ほど触ったと思われる毛皮であった。こんな光景見たことが無い。しかし、横幅は意外にも狭く、両手を広げたくらいの長さであった。
「うへぇ、なんだよこれ。」
 横に身を乗り出してみる。オレの目に映ったのは・・・・・・家の屋根から見たような光景であった。
「う・・・・高い・・・・どうやって降りよう。」
 顔が見る見るうちに青くなる。俺はつい先ほどまで平凡な人間だったのだ。いきなりこんなところについても・・・。
 何をしていいか分からずここに居座ることにした。
「食べ物はどうするんだろう・・・。っていうかホントに来ちゃったんだなぁ。さて・・・・これからどうするか。」
 いろいろ考えて計画を練った。夢中になって考えているとぐらぐらと揺れた。俺は危うく落ちそうになった。ふさふさとなびく毛皮をがっしり掴んだ。ぶら下がったような状態。並みの人間がこんなところから落ちてしまったらひとたまりもない。時折、吹く風が俺の身体を揺らす。
 この動いた物体。動いたということは大型動物か何かだろうか。もともと、こんな世界に来てしまうことすらもおかしいのだ。いまさらかなり大きい動物に出会ってしまう可能性だって思考に入れるのが普通だった。
 そんな物体はゆっくりと動き始めた。
 堵妥 飛剋を乗せたまま・・・・。
 日頃俺は筋肉トレーニングしていたおかげで這い上がることが出来た。というよりも落ちたら死ぬという恐怖が起こした無我の境地である。
「ふう。なんだろこれ。ちょっと怖いけど上に行ってみようか・・・。」
 そう言って生まれたての小鹿のように恐る恐る進む。次第に姿が見えてきた。俺の目にはっきりと映る。ふさふさの毛皮をした竜の姿が。
「ま、まじで?」
 驚きに満ちた声。長い首を掴んでよじ登り頭についた角を持って態勢を整えた。竜がグルルとノドを鳴らした。
「怒ったのか?」
 問い掛けてみる。竜の知能は高いといわれているが果たしてこの世界での竜はどうだろうか。
「俺様の上に乗るとはいい度胸だな。」
 竜が喋ったわけではなかった。俺の脳に直接テレパシーで伝えたのか。さすがにこれには俺も驚いた。
「しゃ、しゃべった?」
「俺は気が立っているのだ。いかげんにしないと・・・」
「ま、待てよ。俺だって降りたいさ。でも降りれないんだ。おろしてくれよ。」
 必死に説得する俺はあまりにも惨めな気がした。俺もこんな奴にはかなうはずもない。
「俺はそんなにお人好しじゃない。だが、降ろす手伝いはしてやろう。」
「ほんとか?じゃぁ早速・・・・」
 そこまで言った瞬間、竜が勢いよく頭を振る。勢いに耐え切れず俺は投げ飛ばされた。軽くヒョイッと飛んで遠くのほうに投げ飛ばされる。
「うそつき・・・・・。」
 飛ばされながらも俺は呟く。もうどうでもよかった。俺の人生、もう終わりか・・・。まだ十五歳だというのに・・・。
 飛ばされて空中にいる中、ここまで冷静になれる奴は凄いと思うのだが・・・。
 飛ばされて、飛ばされて、野原が見えてきた。広大な野原は地平線を眺めることが出来る・・・・・・なんて言っている場合ではない。俺をどうにかして助けなければ・・・。
 しかし、何もすることがない。そのとき、
「こっちだ。」
 下から声がした。仰向けだった俺は身体を反転させ、姿を確認した。俺よりも年が上、大体十七歳くらいの青年であった。自分は何もすることがないのでじっとするだけであった。丁度その青年に向かって落ちていくことが出来た。青年は俺をキャッチした。いい体つきをしていてこの世界を何日か過ごしてきたことを示していた。
「ありがとう」
 ストンとおろされた俺は青年にお礼を言う。
「いやいや。俺の名は奥羽 追人《おうう ついと》。あんたは?」
「堵妥 飛剋。十五歳。追人は何才?」
「いきなり呼びすてか。まぁいいや。十五歳だ。」
「サバ読んでない?」
「読んでない。」
「で、ここってどんな世界なの?」
 俺は話を変えようと疑問に思うことを述べてみた。
「ん?新入りか・・・。お前も行っただろうがあの別世界に飛ぶページで連れてこられた奴が住む、地球とは別世界だ。まだ現実に戻る術は見つかっていない・・・。ここは魔物と魔法のある世界であって魔王が世界を仕切ってる。多分この世界からの脱出方法は魔王を倒すことなんだ。」
「じゃぁ、魔王ってのはどこにいるんだ?」
「話を最後まで聞けよ・・・・。この世界に入った人は必ず持ってるといわれるパワーボールっていうのがあるんだ。ポケットに入ってるか?」
「・・・・・・あった。」
「それだ。それが人の魂のようなものでそれが人の手に渡ると所有者が代わり元の所有者は消滅。つまり死ぬんだ。だがそのパワーボールをたくさん持っていると自分は戦闘力が上がるみたいだ。だからこの世界の住人はパワーボールを求めて殺戮が幾度も行われている。」
「じゃぁ、あんたも俺のパワーボールを狙って?」
「バカ。だったら助けずに落ちてからパワーボールを取ったほうが抵抗されず楽じゃねえか。あ、言い忘れたけどな地球で死ぬようなこと、例えば崖から落ちるとか後頭部を強く叩きつけられるとかそういう行動もやると死ぬぞ。消滅してパワーボールだけ残る。」
「うへぇ。なら何で俺を助けた?」
 不思議な人と出会い、いろんなことを知らされて驚きは絶えない。
「俺はお人好しなんでね。まぁ、他の奴みたいに一人で勝とうなんて考えていないんだ。仲間集めたほうが有利だろ?」
「そっか。じゃぁ追人はいいやつなのか。よかったな、追人に会えて・・・。じゃぁ、俺が追人の仲間になってやる!」
「じゃぁ、まずはお前のレベル上げからだな。この世界は魔物もパワーボールを持ってるんだ。いわゆる経験値ってやつだな。それをかき集めて飛剋を強くするぞ。」
「へぇ。俺が強くなれるのかぁ。」
「ただ、魔物の強さによってパワーボールの大きさは異なるんだ。強い奴ほど大きい。で、パワーボールを手に入れると自分のパワーボールとくっついて大きくなる仕組みだ。ちなみに俺はこのくらい。」
 そう言うと追人はポケットからパワーボールを取り出した。それは飛剋のと比べ物にならなかった。飛剋のは半径一センチ程度だが追人のは半径半径二センチくらいだった。
「それだけ大きくするのにどのくらいかかった?」
 恐る恐る追人に聞いた。
「ん?飛剋の玉を百回くらい倒した。」
「それ0が一個多くない?」
「多くない?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 まだまだ道程は遠いようである



著者:カクュウさん





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