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-From 1-

ANOTHER WORLD


序章 異世界への入り口
 カタン。階段のきしむ音が俺の耳に入ってきた。さらにもう一度、カタン。
その足音は、俺の部屋に近づいてくる度に怒りが感じられた。階段を上る音。静かだけど大胆な上り方だった。
「やば。母さんじゃないのか・・・・。」
 俺は独り言を呟きながら、急いで学校の教科書やノートを開く。イスに音を立てず座り、シャープペンシルを握った。音を少しも立てなかったのは、怪しまれないため。とは言ったものの多分母さんは気付いているだろう。
 足音はオレの部屋の前で止まった。ドアが開けられて、母が顔を出した。
「ちゃんと勉強やってる?」
「や、やってるよ。」
 必死に抵抗する俺。
「じゃぁ、今日やった分を見せて。」
 撃沈。何も答えられなくなってしまった。母はにたぁと笑い、怒りを最大限に発揮してこう言った。
「ちゃんと勉強やりなさいねぇ・・・・・じゃないとあんた捨てちゃうかもしれないよ?」
 なんとも恐ろしい・・・・。親が言う台詞だろうか、これが。
「はぁ。何でこう親ってのは勉強、勉強って・・・。もっと大事なことがあるはずだ!」
 母が部屋から出て行ったのを確認すると俺は文句をいう。
「俺は、勉強より夢最優先なんだ。」
 自分の主張を一人で聞き入れ、納得。これが毎日の母に怒られた後にするパターンである。実際、俺に夢などないのだがこれで満足してしまうという小さな男である。
「ふぅ。気晴らしにパソコンでもやるか。」
 俺は机の引出しからノートパソコンを開く。コンセントを電気スタンドの横にある差込口に差した。半年前、俺は親に無理言ってリビングのノートパソコンを自分の部屋に移させてもらった。勉強をしっかりするという条件で。インターネットを開き、自分のつくったホームページに入る。カウント数は昨日より四十アップ。上々である。
 自分の掲示板に入ってみる。毎度履歴を見て思うのは、なんてことを話してるんだろうって言うこと。
下へスライドさせてみる。オレは一つの話題が目に止まった。
 それは他の文章に比べ光っているように見え、さらには浮き出ているように見えた。
『NAME謎の戦士・最近私のアナザーワールドというホームページで別世界に行ける禁術を紹介しています。もしよかったら一度来てみてください。なお、禁術を使い、自分の身体に異変が起きても一切責任を負いません。』
「へぇ。面白そうだな。言ってみるか。」
 興味本位でホームページアドレスをクリックしてみる。長い時間、ページが変わらず一度切ろうかと思ったが、気になっていたこともあり、もう少し待つことにした。
 十分後・・・・。
「ふむふむ、大抵のやつはこの待ち時間で諦めるやつが多い。つまりそれだけ凄いサイトなのか・・・。」
 勝手な解釈で決め付けて機嫌良く待つ。するとだんだんとホームページが現れてきた・・・・・と思いきや、お探しのページは見つかりませんでした。との表示。
「なんだよ〜。やっぱりでたらめだったのか。」
 そう思った瞬間左上に広告のようなものが現れる。小さくて読み取れない。最大化を押してみる。
      カチッ。
 クリック。だが、大きくはならない。
      カチッ。
 もう一度。急にパソコンが切れ、真っ暗になった。
「あれ?壊れたのか?」
 驚きと困惑が頭脳を巡る。試しにオレはエンターキーを押してみる。すると、スピーカーから
「ヨウコソ、アナザーワールドヘ。アナタハ、異世界ヘ行キタイデスカ?」
 そう流れた。声を機械で変えたような・・・・そう、犯人の親のコメントとかで顔と一緒に声にモザイクをかけたときに出るようなそんな声だ。
「行きたいですか?って言われても・・・・・じゃぁ、行きたい。」
 オレは相手がパソコンなのにも関わらず思わず言ってしまった。パソコンは機械だ。感情を持っているわけではない
      はずだが。
「ソウデスカ。ナラバ連レテ行ッテアゲマショウ。」
「なっ、パ、パソコンに感情があるのか?なぜだ・・・・」 
 さらに大きな驚きと困惑が頭脳を巡った。その巡り行く頭脳の中には恐怖も入り混じっていた。
「アナタハ別世界ニ行キタイト望ンダ。後悔シテモ知リマセンヨ。」
 未だに驚きを隠せないオレ。目がパックリと見開いている。
 そりゃ、そうか。なんせパソコンが自分の言葉に反応したのだから。パソコン内の言葉がオレに届くことがあってもオレの言葉がパソコンに届くはずが無いのだから。
 いろんな感情が湧き出て、脳のはたらきが低下し、硬直してしまった。それが命取り。パソコンの画面は消えたまま。暗い画面が二つモコッと膨らみ始める。それはだんだん形を成していき、しおれた人間の手になった。まるで高齢者のような手である。だがおじいちゃん、おばあちゃんなどという面影は何一つ無く、温かみではなく冷たさがあった。どんどん形状が出来てきて肘のあたりまで画面から出てきている。さらにはもう一つ、画面がモコッと膨らみ始めた。オレはもうなすすべが無かった。自分が普通に暮らしてきて、普通に育ってきた。なのに今起きていることはなんだ?夢か否か?
 三つ目の膨らみは細い糸が何本も生えてきていうように見える。手が二本。さらに糸が何本も。ここまで来たらそろそろあなた方読者も分かってきただろう。この三つ目の膨らみは後頭部であった。つまり何本の糸の正体は髪の毛だった。長い髪の毛。多分女性だろう。さらに出てきて首まで出てきてしまった。少しずつ上を向いてくる。オレはただ見てるだけしか出来なかった。ついに顔を拝めるところまで来てしまった。髪の毛がさらりと揺れ、髪と髪の間から生気を失ったような目がオレを眺めてこう言った。





           「一緒に行きましょうよ、ねぇ?」





 手はオレを掴む。触られた・・・・実物か。そのまま引きずり込まれそうになる。オレはそのときやっと抵抗することが出来た。勉強机の先端を持ってふんばる。だが、こいつの力が予想以上に強く無残にも引きずり込まれてしまった。最後の左足の先が画面に出ている・・・・・消えた。というよりも引きずり込まれた。シーンとする部屋の中。パソコンは暗いままだった・・・。
 これからオレの運命はどうなるのか。天国か、地獄かそんなことはまだ分からない。ただ、天国になるという確率はほとんどと言っていいほどなさそうだ・・・。
 おっと、自己紹介がまだだった。オレの名は堵妥 飛剋(とだ ひかつ)、今パソコンに入っていったやつである。



著者:カクュウさん





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