父が残してくれたもの
第2章 手がかりを求めて
というわけで、そのお父さんが住んでいたという家にやってきた。
警察の捜査が終わって間もないらしく、今はまだ特にいじられてはいないようだ。
家のすぐ隣には先ほど話していた工場もある。
「なるほど…本がいっぱいですね。しかもきっちり整理されている。」
「はい。父は几帳面な性格でしたから…」
「そのようですね。ほう…ほとんど海外の推理小説、しかも原書ですか…」
「ええ。こだわりがあったようで…そうそう、こだわりといえば並び順にも気をつかう人で作者がアルファベット順にきっちり並んでいるでしょう?」
「なるほど…そうですね。おや…しかし同じ作者でも出版された順には並んでいないようですね。」
「えっ!?」
「いや同じ作者の場合、出版時期がはやいものから背表紙に番号がふってあるんですよ。しかしその順番はどれもバラバラのようだ。」
「そんなバカな!?父は本当に几帳面な人でしたから、そこに気づかないはずは…ああ!」
その小太りの男は勝手に納得したようで、大きくうなずいた。
「きっと警察の人ですよ。何か自殺の動機みたいなものがないか調べていたのでしょう。」
「そうですか?自殺の動機は工場がたちゆかなくなっていたことから、借金だとすぐに推測できたのではありませんか?それとも死に方に何か問題でも?」
「いえ首吊り自殺ということで特に問題はなかったようです。」
「だとしたら警察が本棚をひっくりかえして調べるようなことはないはずです。それにしっかり著者はアルファベット順に並んでいるわけだし。」
「ということは…」
「ええ。お父様がなんらかの理由でわざと並び順を変えた…」
「だとしたら何の理由で…」
「それはまだなんともいえませんがね。」
そういうと私はさらに何か変わったところがないかあたりを見回した。
そしてふと目をやると…
「ずいぶんパソコン雑誌がありますね。」
「ええ。父の趣味といったら推理小説かパソコンかって感じでしたからね。今ほどパソコンが一般的でなかったころからいじってました。」
「起動してみてもよろしいですか?」
「それはかまいませんが…既に警察が調べているんじゃ…」
「まあ一応見てみましょうよ。」
とはいったものの、このパソコンに特に変わったところはなかった。
しかし、このパソコンであの暗号をつくり、隣にあるこのプリンターで印刷したと見て間違いないだろう。
「ふーむ…特に変わったところはないようですね。」
私はそういって電源をきろうとした。
その時ふと机の上の写真たてが目にとまった。
そこには4人の人物が笑顔でうつっていた。
4人!?
「この写真は…」
「あっ!!」
私がその写真について尋ねようとしたとき、小太りの男は明らかに動揺していた。
「そ、それは…」
男がなにか言いかけたとき、ガチャ!!と勢い良く玄関の戸が開く音がした。
「誰かいるのか?」
そんな声とともに足音が近づいてきて、私たちがいる部屋のドアが開いた。
「あっ!!おまえ!!」