父が残してくれたもの
第3章 そろった鍵
「何しにきたんだ?おまえ…」
スラッとして背の高い男が静かに言い放った。
「兄貴こそ…」
それだけいうと小太りの男は黙り込んでしまった。
なるほど…
写真のことを聞く手間が省けた。
あの写真にうつっていた4人は、幼いころのこの兄弟とその両親だったのだ。
「ふん…どうせセコイおまえのことだ。少しでも金目のものがないか物色しにきたんだろう。」
「そういう兄貴こそしっかりものの親父が少しでも財産隠してないか探りにきたんじゃないのか!?」
「なんだと、この野郎!!」
「ちょっと待ってください。」
たまりかねて私が間に入った。
「誰だ、こいつは!!」
私を無視して弟に怒鳴りかかった兄貴だったが、弟はあさっての方をむいて答えようとしなかった。
「私、こういうものです。」
しかたなく私は名刺をさしだした。
「探偵だと!!おい!!これは一体どういうことだ!?」
「ふん、多分同じ考えだよ。来たんだろ、兄貴のところにも。親父からの手紙。」
「うっ…」
「やっぱりな…」
そういうことか…
しっかりものの親父さんが金目のものを隠していてそれを暗号で伝えてると思ったわけだ。
多分この弟はお兄さんにも暗号が送られていると考え、あせって私のところへ来たのだろう。
そしてお互いに連絡していないということは…
「お二人は連絡はとりあってないんですか?」
私はどちらにともなく尋ねてみた。
「ふん!!顔も見たくないね。」
兄のほうがこたえると、
「こっちもだ!!」
弟もそう言い放った。
つまり二人はケンカ別れして今は全然連絡をとりあっていない。
そして、どちらも先に暗号を解き、あるかないかもわからない財産を独り占めにしようとしていたというわけだ。
「ふう…」
私はやりきれない思いになったが、探偵として依頼を受けたからにはきちんと解決しなければ寝覚めが悪い。
そこまで考えた時、ふと思いついたことがあった。
「お兄さん。お兄さんも暗号らしきものを受け取ったんですよね。見せていただけませんか?その暗号。」
「どうしておまえなんかに…」
「こちらもお見せしますから。」
「ちょ、ちょっと探偵さん勝手に…」
「まあいいからいいから。さてどうします?」
スラッと背の高い兄のほうは少し迷ったそぶりをみせたが、結局見せ合うことになった。
「197536248」
兄のほうの紙にはそう印刷されていた。
「どうして違うんだ!?」
重なるように兄弟は声をあげ、気まずそうに顔をそむけた。
そんなことはそっちのけで私は2枚の紙切れをじっとみつめた。
これで暗号を解く鍵はすべてそろったはずだ。
あとは答えを導き出すだけ…
すると私はふと思いつくことがあり、パソコンのある机に近寄った。
「なるほど…そういうことか…」
私がポツリとつぶやくと、
「何かわかったのか!?」
「暗号が解けたのか!?」
兄弟は口々に言い合って私のところへ寄ってきた。
「そもそも暗号というのは、特定の人に解いてもらうためにあるのです。特定の人とは探偵や警察のことを言っているのではありません。特定の人とは、暗号をつくったひとがメッセージを伝えたいと思った人、つまり今回の場合あなたたち二人のことです。」
私はゆっくりと二人を見た。
「あなたたち二人の話を聞き、今回はたまたま私のほうが先に解けてしまいましたが、あなたがた二人の頭が欲望で鈍っていなければ、私が解くまでもなくあなたがた二人の力で解けていたと思います。」
そういうと私はパソコンのほうにむきなおった。
「暗号は解けましたが、やはり私にはこの言葉にどんな意味があるのかわかりませんでした。しかしあなたたち二人にならきっとわかるでしょう。」
私はそういうとその言葉を静かにパソコンにうちだした。