父が残してくれたもの

第1章 依頼

「どうです?探偵さん?」

私はじっと黙ってその紙切れを見つめていた。
その紙切れには「eattckbi4」とだけ書かれていた。

「う〜ん…」

私はうなるしかなかった。

「ふう…やっぱり探偵になんて頼むんじゃなかったかな…」

その小太りの男は独り言のつもりだったらしいが、私のところまで丸聞こえだ。
私はカチンときたが、ぐっとこらえてもう一度その紙切れをよく見てみることにした。

規則正しく全く乱れのない文字列は、おそらくパソコンで作成され、プリントアウトされたものと思われる。
紙はなんの変哲もない印刷用紙のようだ。

「本当にこれだけしか入っていなかったのですか?」

「ええ。他には何も…」

「う〜ん…」

私はまたうなるしかなかった。

「もう一度話を整理してみましょう。まずあなた宛に封筒が送られてきたんでしたね。」

「そうです。」

「その封筒の差出人が今は亡きお父様になっていたと…」

「はい。いたずらかとも思ったのですが、気になったもので…」

「お父様はいつごろお亡くなりに?」

「えーと…つい最近です。」

「ご病気かなにかですか?」

「いえ…申し上げにくいのですが…自殺です。かなり大きな借金を抱えてまして…それで…」

「お父様は死ぬ直前にあなたに何を伝えたかったのでしょうね?しかも暗号めいたものを使って。」

「父は推理小説が好きでしたから…ちょっとふざけてみたのかもしれませんが…」

「死ぬ直前に…ねえ…」

私はそうは思わなかった。
借金をかかえ自殺しようとしている人間がふざけて暗号など使うはずがない。
きっと何か伝えようとしたのだ。
他人に見られてはまずい何か…

「お父様はなぜ借金を?」

「父は小さいながら工場の社長でした。最近は不景気でどうにもたちゆかなくなったらしいです。私は遠く離れて住んでいるので、事情は警察の人から聞いた次第です。ああ母はだいぶ前に他界しています。」

「そうですか…ところで借金をかかえていらっしゃったそうですが、お父様のお家は…」

「近々競売にかけられる予定ですが、今はまだ残っていると…」

「それではこれから行ってみませんか?」

「えっ!?これからですか?まあ別にかまいませんが…」


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