『夢のしっぽ』


 ハア、ハア、ハア、ハア……
 私は必死で逃げていた。
 何から?
 怖くて振り返ることさえできなかった。
 押し潰されそうな恐怖感を背中に感じる。
 体が重い。
 まるで水の中を走っているかのように、全身の動作がイライラするほど遅い。
 それでも、なんとか前に進もうと必死に手足を動かす。
 ただただ、迫り来る得体の知れない恐怖から逃れようとして。


 ピピピピッ、ピピピピッ……
 私は目覚まし時計を止め、ゆっくりと上半身を起こした。

――また、この夢だ……

 起き掛けのぼーっとする頭で、私はさっきまで見ていた夢のことを考えた。


 私はちょくちょくこういった類の夢を見る。
 シチュエーションは違っても、いつも何かに追いかけられ、私はただひたすら逃げている。
 足の速さには自信があるのに、夢の中では決まって体が重く、思ったように足が前に進まない。
 そして、常につきまとうのが、言いようのない恐怖感。
 だから、目覚めた時には、ほっとする。
 ああ、夢だったんだなって。


 しかし、今日はいつもと同じではなかった。
 目覚まし時計が鳴る前に、私は半分起きていた。
 うすうすそれが夢だと気付いていた。
 カーテンの隙間から差し込む朝日を、なんとなく感じていた。
 それなのに、私は起きようとしなかった。
 夢のしっぽを捕まえて、起きることを拒んだ。
 すごく怖い夢なのに……
 起きてしまえば、得体の知れない恐怖から開放されるというのに……
 どうして私は夢のしっぽにすがりついたのだろう?


 今日も私は、時間ギリギリに家を飛び出す。










あとがき

これは『短編』という小説コンクールサイトさんに投稿して、1票だけ獲得し、予選落ちしてしまった作品です。
でも、僕の書いたものを好きだと言ってくれる人が1人でもいたということが、すごくうれしかったし、自信にもなりました。
僕の小説を読んで、何かを感じてくださる方が1人でもいたとすれば、書いた甲斐があるというものです。

この小説は僕の実体験をもとに書いたものです。
睡眠好きの僕は、この考えにいたった時、かなりの衝撃をうけました。
みなさんにも同じような経験をしてもらいたいなと思って、この小説を書いた次第です。
だからこそ、感情移入しやすいように、主人公を『私』にしたのですが、いかがでしたか?
何かを感じてくだされば幸いです。






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