小説の感想

僕の好きなジャンルは『ミステリー』です。
僕の中で高評価になりやすい小説は、『楽に読める』、『感情移入できる』、『サプライズがある』、というような要素を持っているものです。

評価のおおまかな基準
☆☆☆☆☆ 是非読んで欲しい、と自信をもってオススメできる本
☆☆☆☆ ひじょうにおもしろく、読んで損はない本
☆☆☆ 普通におもしろく、それなりに満足できた本
☆☆ おもしろくないとまでは言えないが、あえて読まなくても良かったかなという本
最後まで読んだがおもしろいとは思えない本
   途中で読むのをやめてしまった本

※極力ネタバレを避けているので、感想部分はかなり抽象的になってしまっています……


NO. タイトル 著者 評価 あらすじ&感想&Amazonへのリンク
46 アサッテの人 諏訪哲史 ☆☆ 【あらすじ】
『ポンパ!』と突然奇声を発する叔父について、叔父の日記をもとに『私』が解説する。第137回芥川賞受賞作。

【感想】
これは果たして小説と呼べる作品なのだろうか?
一般の人にとっては意見のわかれるところだと思うが、僕としては、これは小説とはよべない、というよりよびたくない。
この作品は、『私』の『叔父』について、叔父の日記や叔父の奥さんの話を引用して、どういう人物なのかをひたすら解説している。
読んでいると、その叔父の奇声やアサッテの意味についてわかってきて、納得もし、共感もおぼえる。
『ポンパ!』には一度は口に出してみたくなる不思議な魅力があることも間違いない。
ただ、小説としてのおもしろさを感じることはあまりなかったと言わざるをえない。
作者はこの奇抜な書き方こそベストだと思い、実際に芥川賞を受賞したわけだが、僕としては、普通の小説として描いてほしかったと思う。
その方が、僕を含めた一般大衆には受け入れられたような気がする。
それほど長い作品ではないので、『ポンパ!』や『アサッテ』の意味が知りたいという人は読んでみても良いかもしれない。


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1 秘密 東野圭吾 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
会社員の杉田平介には妻とひとりの娘がいた。その妻と娘がバスの事故に巻き込まれてしまい、目を開けたのは娘だけ。しかし、娘の肉体には妻の魂が宿っていた。

【感想】
小説を読んで、これほどまでに『せつない』気持ちになったのは初めてだった。読み終えたとき、喉の奥から思わず「ガッ…」という声がでた。たぶんどのくらいかわからないが、息をしてなかったのだと思う。
ただ、娘の体に妻の意識が宿った…たったそれだけで、人はこんなにも苦悩し、こんなにもせつない日々を送らなければならなくなるのかと深く考えさせられるストーリーだ。
また東野さん特有のしかけもしてあって、ホントに最後の最後まで楽しませてくれる。
現時点では僕の中でのNO.1小説だ。


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2 泥流地帯
続・泥流地帯
三浦綾子 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
大正15年、北海道のとある部落で、拓一と耕作の兄弟は、貧しさに負けず誠実に生きていた。そんな中、無常にも十勝岳が噴火し、何もかもが泥流に飲み込まれていく。

【感想】
この本からは学ぶことがたくさんあった。そして、忘れかけていた感情を呼び覚ましてくれる本であった。
確かにこの世は因果応報が成り立つとは限らず、素晴らしい行いをしている人が必ずしも裕福であるとは限らない。しかし、だからといって悪いことをしたり、怠惰な生活を送って良いわけではない。
どんなにつらいことがあっても、それを試練だと受け止められるくらいに心は清らかでありたい、そう思わせてくれる本であった。
(まりんさんご推薦)


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3 “It(それ)”と呼ばれた子
(幼年期)
デイヴ・ペルザー
(訳:田栗美奈子)
☆☆ 【あらすじ】
実の母親からまるで奴隷のように扱われていた子供のお話。

【感想】
著者が自らの虐待経験を赤裸々につづった本。
あまりにもひどい虐待に驚かされるとともに、虐待を受けた子供がどんな気持ちで過ごしているのかがすごくよくわかる。
子供はどんなにひどい仕打ちをうけ、どんなに絶望したとしても、心の底では親の愛を求め、いつか自分を愛するようになってくれると信じているもののようだ。
その気持ち、わかる気がする。
ただ、体験記であり、話を盛り上げるような演出が使われていないこともあって、小説としてはそれほどおもしろいものではない。


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4 鳥人計画 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
鳥人とまで言われたスキーのジャンプ競技のエース、楡井が毒殺された。しかし、ある密告者の手紙により、犯人はあっさりと捕まってしまう。その捕まった犯人が、密告した人物を推理するというお話。

【感想】

いい意味でオーソドックスな東野さん作品と言える一冊。
謎が少しずつ少しずつ解けていき、最後に意外な真相が用意されている。
スキーのジャンプ競技についていろいろと出てくるが、特に知らない人でも十分に楽しめる内容になっていると思う。


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5 回廊亭殺人事件 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
回廊亭という旅館で財産相続に関する遺言状が公開されることになった。老婆に変装したとある人物が、以前その回廊亭で起きた心中事件の真相を探るというお話。

【感想】
最初は登場人物の多さと複雑な人間関係にちょっととまどったが、読み進めていくと知らぬ間に作品に入り込んでいる。
この作品は少し真相がわかりづらいが、意外な結末が待っているのは例によって東野さんらしい。
ただ、他の作品に比べるとそれほど意外性は強くないように思う。


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6 天使の卵 村山由佳 ☆☆☆ 【あらすじ】
予備校生の歩太がひとめぼれをしてしまったのは、自分の彼女の姉だった。

【感想】
本当は直木賞受賞作を読んでみたかったが、それは文庫化されるまで待つことにして、古本屋で見つけたこの本を読んでみた。
ストーリーとしては結構ベタな感じ。
展開の読める話ではあったが、読みやすかった。
若い女性にはいいかもしれない。
ただ、この作者と僕がめざすところはかなり近いかもしれない。
以下、すばる新人賞受賞時のコメントから抜粋。
『……格調高い『文学』でなくていい。全ての人を感動させられなくてもいい。ただ、読んでくれた人のうち、ほんの何人かでいいから心から共感してくれるような、無茶苦茶せつない小説が書きたい……』


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7 失踪HOLIDAY 乙一 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
金持ちのひとり娘ナオは継母と喧嘩をして家出した。失踪先はなんとすぐ隣の建物。そこで、家族を少し困らせたい、そんな軽い気持ちでやったことが思わぬ事態を招くことに。

【感想】
表題作の『失踪HOLIDAY』と『しあわせは子猫のかたち』という短編が2作おさめられている。
読者に気付かれない程度の伏線が多数存在している。
真相はそんなところにあったのかとどちらの作品でも驚かされた。
それだけ意外な真相にもかかわらず、ストーリーやキャラ設定がしっかりしていて、主人公に感情移入して読めた。
個人的には表題作よりも、『しあわせは子猫のかたち』の方が好きかもしれない。


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8 小説自殺マニュアル 赤城修史
佐藤広行
☆☆ 【あらすじ】
完全に死ねる自殺のやり方が載っている自殺マニュアルDVDを巡る人々のお話。

【感想】
本屋でふと目にとまり、気になって衝動買いしてしまった小説。
以前、『完全自殺マニュアル』という本が売れている(問題になっている)らしいという話は聞いたことがあったが、読んだことはなかった。
自殺の方法については不気味なくらい克明に描写されていて、死んでいく者に感情移入すると結構つらくなった。
まったく救いのないのかと思えば、最後はわずかな希望を残す感じで終わっている。
生きる権利は誰にでもある。
しかし、自ら死ぬ権利はあるのだろうか。
そんなことを考えさせられる小説だった。


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9 池袋ウエストゲートパーク 石田衣良 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
殺し、麻薬、風俗……そんな悪意渦巻く池袋を舞台に、ストリートで生きる少年少女たちの実態は……

【感想】
文章は短文、体言止めを多用し、スピード感あふれる作品だと思う。
主人公の独白のような感じで書かれていて、ひじょうにおもしろい。
そして、登場人物がやたらとかっこいい。
もちろん表面的なかっこよさではなく、内面的なかっこよさ。
特に主人公のマコトがいつも考えていること。
『自分には何ができるだろうか』
誰かが困っている時、自分が怠けそうになった時、この言葉を思い出したいと思う。


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10 蹴りたい背中 綿矢りさ ☆☆☆☆ 【あらすじ】
うそ臭い人間関係を築くのが嫌になったハツ。必然的に孤独となり、教室で息苦しさを感じていたが、似たような境遇のにな川に興味を持つようになる。第130回芥川賞受賞作。

【感想】
登場人物はそれほど多くないが、ひとりひとりのキャラクターがしっかりしていて、彼女らの動く姿が目に映るようだった。
ハツの気持ち、ひじょうによくわかる。
いろいろなことを思い出し、いろいろなことを考えさせられた。
ただ、ハツのにな川に対する気持ちはよくわからないまま終わってしまった。
ハツ自身がわかっていないせいかもしれない。
とてもおもしろかったが、ラストの終わり方と著者の若さへの嫉妬から、一時☆は3つにしたが、後に4つが正当な評価と思い直し修正。


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11 蛇にピアス 金原ひとみ ☆☆☆ 【あらすじ】
スプリットタンという蛇のような舌をした男にひかれるルイ。自分もスプリットタンにしようと決意し……。第130回芥川賞受賞作。

【感想】
舌にピアスをあけてそれを拡張していく……読んでいてかなり痛々しい作品。
歪んだ愛、歪んだ性、歪んだ精神……
ちょっと普通でない世界が描かれていて、衝撃的ではある。


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12 女子大生会計士の事件簿シリーズ 山田真哉 ☆☆☆ 【あらすじ】
女子大生会計士の藤原萌美と新人会計士補の柿本一麻が会計監査にまつわる事件を次々に解決していく短編集。

【感想】
最初は小説としてはイマイチかなと思いながら読んでいたが、読み進めていくうちにだんだんとハマっていった。
萌さんとカッキーのかけあいが意外とおもしろい。
また会計に関する知識が随所に散りばめられていて、ひじょうにためになる本でもあると思う。
その上、会話文主体の平易な文章で書かれているため、読みやすい。
これを読んで、僕も会計のこと、会計士のことが少しはわかったような気がする。
このシリーズはまだ続いていくと思うので、読み続けていきたいと思う。


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13 世界の中心で、愛をさけぶ 片山恭一 ☆☆☆ 【あらすじ】
中学生からはじまり高校生で終わった、朔太郎とアキの悲しい恋物語。

【感想】
愛と死について、主人公たちを通して哲学的に語られていて、いろいろ考えさせられた。
結局どんなにつらく悲しいことがあったとしても、生きている限り自分に都合のいい理屈をつけることによって、それらを糧にしていかなければならないのだろうと思った。
初々しく甘酸っぱい恋をしていた朔太郎とアキに突然降りかかる悲劇。
確かに悲しく胸をつく作品ではある。
ただまとめとしては、世間で騒がれているほどすごい作品……とは正直思えなかった。


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14 指先の花 益子昌一 ☆☆☆ 【あらすじ】
『世界の中心で、愛をさけぶ』の続編とでも言うべき作品で、映画を小説化したもの。原作のラストで出てきた『彼女』を律子と命名し、主にアキの死んだ後の世界を描いている。

【感想】
偶然に偶然が重なったようなストーリーで、それがむしろ運命を感じさせる。
僕としてはむしろ原作よりこちらの方がおもしろかったような気もする。
まあ原作あってこその作品ではあるのだが……
原作とズレる部分があるので、原作が好きな人にはあまりおすすめできないかも。

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15 四日間の奇跡 浅倉卓弥 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
ピアノを弾けなくなった秀才ピアニストと脳に障害をもった少女が遭遇した4日間の奇跡のお話。

【感想】
中盤あたりで起こる奇跡の始まりは、僕の好きなあの作品(題名を出すとネタバレしてしまうので)とかなり近い。
しかし、二番煎じというような感じはまったくうけなかった。
その奇跡が始まる前、つまりメインの仕掛けを発動させる前の段階で、僕は既に作品に深くのめりこんでいた。
少女の片言のセリフがかわいくて、せつなくて、とても印象的だった。
ピアノについての描写も丁寧で、ピアノをやっている人はさらに楽しめると思う。
最終的な読後感ではあの作品に一歩及ばないといった感じだが、これはこれでひじょうにせつなくて、感動する作品だった。

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16 理由 宮部みゆき       【あらすじ】
とあるマンションの一室で4人の人物が殺されていた。複雑な事情がからみあい、捜査は遅々として進まないが、結局なぜ彼らは殺されなければならなかったのか。第120回直木賞受賞作。

【感想】
かなり売れている作品のようだが、僕は途中で投げ出してしまった。
かなり長い作品だということも原因のひとつと言えるかもしれないが、一番の原因は登場人物のキャラが全くと言っていいほどたっていないことではないだろうか。
そのくせ登場人物はかなり多いので、僕の頭では覚えきれなかった。
さらに、事件を全て取材し終わったジャーナリストらしき人物が関係者の後日談をまとめたような感じで書かれているのだが、そのへんも感情移入を妨げる要因になっていたような気がする。
ひょっとしたら後半でそのへんがうまく生きてきたりするのかもしれないが、僕はそこまで読み進める気にならなかった。
久しぶりにハズレだなと思った小説。

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17 白夜行 東野圭吾 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
大阪の廃墟ビルで1人の質屋が殺された。結局犯人は捕まらなかったが、その質屋の息子、桐原亮司と容疑者としてあげられた西本文代の娘、雪穂。2人の周囲には常に不穏な空気がつきまとい、この後も様々な事件が巻き起こる。

【感想】
上記の『理由』が僕としてはハズレだったので、確実におもしろい作品ということで東野さんの小説をチョイスした。
そして改めて思った。この人は天才だなと。
この作品は文庫本で800ページを超える超長編だが、少しも飽きることがなかった。
ホントにたくさんの人物が出てきたが、その全てにサブストーリーというべきものがあるせいか、どの人物も生き生きとしている。
そしてそれらをメインのストーリーにつないでいく手法は絶妙としか言いようがない。
さらに特筆すべきは、主人公というべき2人の視点ではいっさい語られることがないということだ。
にもかかわらず、2人の内面を感じることができるというのはすごいことだと思う。
いたるところに伏線が張り巡らされており、読んでいて何度もハッとさせられるだろう。
そして最後に題名を思い出した時、それが最高の題名だと気付くのではないだろうか。
『秘密』に次ぐおすすめの作品。

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18 片想い 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
哲朗は毎年恒例になっている大学時代のアメフト部の集まりに参加していた。その帰り道、もう10年ほど顔を出していなかったマネージャーの美月を見つけ、哲朗は自宅へと招待した。そこで美月から衝撃の告白を受けることになる。

【感想】
もちろん全体的にはおもしろかったが、テーマの関係上人物関係がややこしく、頭がこんがらがる部分があった。
そのテーマというのが性別に関する問題。
つまり男と女は裏表の関係なのか、それともメビウスの帯のようなものなのか。
このあたりはひじょうに難しい問題だと思う。
読みながらいろいろと考えてはみたものの、今でも結論は出ていない。
難しいテーマが背後を流れているが、ミステリとしてもしっかりと成り立っている。
アメフトのポジションに絡めて登場人物の性格が紹介されているので、アメフトを知っている人はさらに楽しめる作品だろう。

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19 アンモナイトドリーム 北城真琴 ☆☆☆ 【あらすじ】
自分の思い通りにならないものを全て排除しようとするカズノブと思い通りにならないのは自分のせいだと思い込むアサコ。全く違うようでどこか似ている2人の物語。

【感想】
重い内容のわりに重さを感じさせない作品だと思った。
ひじょうに読みやすかったし、読んでいる最中にいろいろなことを思い出したり考えさせられたりした。
ただ、それは作品に引き込まれなかったということでもある。
振り返ってみれば、メインの登場人物2人に感情移入することはできず、第三者的な目線で読んでいたような気がする。
リアルな感情を描いた作品だと思うし、納得もできるが、僕としては共感はできないし、感動も得られなかった。
しかし、今の世の中にはカズノブかアサコに自分を重ね合わせることのできる人が少なくないと思う。
そういう人にとってはきっと共感できる一冊であるだろう。

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20 夜の果てまで 盛田隆二 ☆☆☆ 【あらすじ】
北大生の俊介は二年間つきあっていた彼女から突然別れ話をされる。そんな時、バイト先のコンビニでいつも同じものを万引きしていくスタイル抜群の女性にひかれはじめるが、彼女には家庭があった。

【感想】
前半はわりと作品内にひきこまれる感じで次へ次へと読みたくなった。
しかし、後半ちょっと俊介の行動に安っぽさを感じるようになってしまった。
また、僕の行間を読む力が足りないのか、ところどころわかりづらい部分があった。
ただ、最後の解説にもあったが、失踪する話であるにもかかわらず、失踪後の話を一切書いていないという書き方はひじょうにおもしろいと思った。
お互いに全てを捨ててでも一緒にいたいという思いと、今まで築きあげてきたものを壊したくないという思いの葛藤がよく描かれている。
札幌に関する描写がかなり詳しいので、札幌を知っている人は入り込みやすい作品ではないだろうか。

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21 時生 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
不治の病に侵され今まさに息をひきとろうとしている息子を前に、拓実は妻に、自分の人生を変えることになった、20年以上前の不思議な体験を語りだした。

【感想】
これは読んですぐわかることなので書いてしまうが、基本的には主人公拓実の息子トキオが、まさに時を越えて拓実に会いに来たという、言ってみればありがちな話。
しかし、拓実のダメダメだがどこか憎めないキャラは、読んでいて応援したくなる。
その拓実と未来から来た息子のトキオがすることになる一種の大冒険は、それ自体おもしろいし、その中で、拓実が徐々に更生していく様は心地よく感じる。

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22 DZ 小笠原慧 ☆☆☆ 【あらすじ】
アメリカのペンシルベニア州で、夫婦の冷凍死体が発見された。5歳の息子は行方不明のまま、事件は迷宮入りする。一方、日本では、異常な兆候を示す少女がいた。

【感想】
取り扱っているテーマ、舞台、時間、どれもが壮大な作品。
そのため、多くの人物の視点から描かれていて、パートごとに、1からその世界に入りなおさなければならないので、感情移入して読むタイプの人にはちょっとむかないかもしれない。
ただ、それぞれのパートごとにしっかりと楽しめる部分が用意されているので、途中で嫌になるというものでもなかった。
そして、壮大でバラバラな断片がひとつにまとめあげられていくという部分においてはすごい作品だと思う。
しかし、専門的な部分(医学関係)も割愛せずにしっかり書かれているため、その分野に関して知識のない人、興味のない人にとっては退屈な部分が多い。

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23 火の粉 雫井脩介 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
武内真伍は以前殺人容疑で起訴されていたが、当時裁判長だった梶間勲により無罪判決をうけた。その後、梶間家の隣にどういうわけか武内が引っ越してきて……

【感想】
この作者は人物、そして日常の描写がひじょうにうまいと思った。
目を閉じれば、登場人物のひとりひとりがまるで生きているかのように浮かび上がってくる。
そして、日常、特になんということはない主婦の日常が描かれている部分が多くあるのだが、これが何故かリアルでおもしろい。
それだけでも楽しめる日常の世界に、ちょっぴり非日常的な部分、さらには謎解きの要素が加われば、おもしろくないはずがない。
まあある意味このお話は、普通の日常がリアルに普通の日常であるということがポイントにもなってきたりもするのだが……
最後がちょっとあっけなく終わってしまったような気もするが、全体的に見れば、ひじょうに楽しめる作品だと思う。


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24 奪取
(上・下巻)
真保裕一 ☆☆☆ 【あらすじ】
ヤクザからの借金を返済すべく、偽札造りをはじめた道郎と雅人。頭脳派の道郎と肉体派の雅人の絶妙なコンビネーションで、うまくいったかに思われたが……

【感想】
まず最初の読み始めは、文章的にあまり好きではないなという印象をもった。
その点は読み進めていくうちにあまり気にならなくなったが、それよりなにより、この作品はおもしろい部分とそうでない部分の差がひじょうに激しい。
おもしろくない部分は、偽札を造っている部分。
印刷機の種類、インクの種類、紙の種類など、かなり詳細に描かれていて、本当にこの通りにやったら偽札ができるんじゃないかと思うくらいなのだが、専門的過ぎて、正直退屈だった。
逆におもしろい部分は、偽札を本物の札に変えようとする、実行部分。
成功するのか否かということで、ドキドキさせられた。
というわけで、偽札製造過程に興味があったり、我慢して読み進められる人には、いい本かもしれない。


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25 ゲームの名は誘拐 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
広告プランナーの佐久間は、取引先の葛城にプロジェクトを潰された。納得できない佐久間は、直接葛城に会うため、葛城邸を訪れた。そこで、塀を乗り越えて外に出てきた葛城の娘と遭遇し、狂言誘拐をすることに……

【感想】
東野さんの作品にしては、あまりサプライズ的なものは少なく、しかけもよみやすい。
ただ、犯人からの視点でのみ描かれているせいか、ひじょうに読みやすい。
僕はこの1冊をノンストップで読み終えてしまった。
楽な気持ちで、さらっとミステリーを読みたいという人には、うってつけの本ではないだろうか。


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26 邪魔
(上・下巻)
奥田英朗 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
悪い仲間と行動をともにする不良高校生の渡辺裕輔。夫と子供2人に囲まれて幸せに暮らす平凡な主婦の及川恭子。最愛の妻を亡くしたショックをひきずる警官、九野薫。一連の事件に巻き込まれた3人は……

【感想】
3人の視点から複雑に絡み合う事件の真相が描き出されている。
ただ、この小説のポイントは謎解きではなく、人間の描写だと思う。
立場が全く異なる3人が事件に巻き込まれていく様が良く描かれている。
この作者も日常の描写がひじょうにうまい。
だからこそ作品に入っていきやすいし、非日常が際立ってくるように思う。
かなりおすすめできる作品ではあるが、僕としては、最後がスカッとするものではなかったので、評価は☆4つにとどめておいた。

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27 栄光一途 雫井脩介 ☆☆ 【あらすじ】
オリンピックを目前に控えたある日、日本柔道強化チームのコーチである望月篠子は、代表候補選手の中にドーピングをしている者がいる可能性があると聞かされ、その調査をするはめになった。

【感想】
『火の粉』がひじょうに良かったので、期待しながら読んだが、はっきり言って期待はずれだった。
もちろん、それなりに謎があり、しかけがあり、アクションシーンもあった。
しかし、残念ながら、作品を通して、ドキドキ、あるいはワクワクするようなことが、ほとんどなかった。
次へ次へと読みたくなる、そういう感覚におちいることがなかったのだ。
全然おもしろくないわけではないが、あまりおすすめはできない。


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28 星々の舟 村山由佳 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
1つの家族について、家族ひとりひとり、それぞれの立場から描いた、短編集とも長編ともとれる作品。第129回直木賞受賞作。

【感想】
家族ひとりひとり、それぞれの視点から、それぞれの人生について描かれている。
それは、年老いた父、30前後の兄妹、高校生の孫などなど、つまり、老若男女、様々な人間の生き様を描くことになる。
これはひじょうに難しいことだが、この作品では、確かにそこにその家族はいたと思えるほど、登場人物がみな生き生きとしている。
過去の回想と現在の状況、さらに家族間の関係などをうまくからませ、視点が変わってはじめてわかることもあり、読み進めるにしたがってどんどんおもしろくなっていった。
うまく説明できないのがもどかしいのだが、間違いなくおもしろいので、是非読んでみてほしい。
直木賞受賞も納得の作品。


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29 レイクサイド 東野圭吾 ☆☆☆ 【あらすじ】
4組の親子が参加する勉強合宿に参加した俊介。しかし、その合宿中に1人の人間が殺された。それは俊介の部下で愛人でもある英理子だった。しかも、殺したのは妻の美奈子だというが……

【感想】
共犯者として、事件の隠蔽工作に加担する俊介の行動はなかなかにおもしろい。
その中で、徐々に俊介は疑問を感じていき、真相に迫っていくのだが、今回は真犯人の予想がかなり早い段階でついてしまった。
というわけで、東野さん特有のサプライズがあまり感じられず、決しておもしろくないわけではないが、さほど感じるものがなかったというのが本音。

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30 殺人の門 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
田島和幸は幼いころから殺人に興味を持ち、何度も実行しようとするが、寸前で思いとどまってしまう。殺人者になるために自分に欠けているものは一体何なのだろうか。自分の人生に不幸な風を運んでくる倉持修に殺意を覚えながらも、田島は奇妙な友人関係を続けていく。

【感想】
この本には、田島和幸という1人の人間の人生が描かれている。
僕はこの本を読み終えた時、自らが田島和幸となって、一生分を生きた気がした。
そのくらいリアリティがあったと僕は思う。
一時はだまされすぎなんじゃないかとも思った。
Amazonの感想欄にも同様の意見があった。
しかし、せっぱつまった状態で、救いの手をさしのべてくれる人間が1人しかいなかったとしたら、どうだろうか。
主人公は倉持修にだまされ続け、不幸へ誘われていったが、それと同時に救われもしていたように思う。
だからこそ、疑いながらも、拒絶しながらも、ギリギリのところでは頼るしかなかった。
そういう心理的な部分までかなり細かく計算されている作品だと思った。
ただ、衝撃的なトリックなどはないので、純粋な推理小説を読みたいという人にはおすすめできない。
自分とは違う、せつなくてつらい人生を、自らが主人公となって歩んでみたいという方は是非読んでみてほしい。


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31 13階段 高野和明 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
無実の罪を着せられ、死刑判決を受けた男を救うべく、2人の男が駆けずり回る。1人は刑務官の南郷。もう1人は傷害致死の罪を償い、刑務所から出てきたばかりの三上。わずかな手がかりをもとに、2人は冤罪を証明できるのか。

【感想】
この本のメインはもちろんミステリーとしての要素、つまり、わずかな手がかりから、真犯人を見つけ出すということ。
その部分だけみても、この本はかなり完成度が高く、ラストも一筋縄ではいかないような作りになっていて、十分楽しめる。
メインの2人の過去も丁寧に描かれており、どういう経緯で現在に至ったかがよくわかる。
しかし、この本はそれだけではない。
死刑制度について、罪を犯すということについて、また罪を償うということについて、いろいろと考えさせられる。
そういった意味では、ひじょうにためになる本とも言えるだろう。
ただ、逆に言えば、ところどころ、考えさせられる部分があり、終始小説の世界にどっぷりとのめり込めたとは言えないので、☆は4つにしておいた。


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32 白く長い廊下 川田弥一郎 ☆☆☆ 【あらすじ】
十二指腸潰瘍手術後の患者が病室に運ばれる途中に容態が急変し、死亡した。死因がはっきりしない中、病院側は遺族から補償を求められ、保険の関係上、誰かに過失があったことにしなければならなくなった。その矛先をむけられた窪島医師は、真相解明のために、調査をはじめた。

【感想】
病院が舞台ではあるが、専門用語がバンバン飛び出してくるわけではなく、とっつきにくいわけではない。
ただ、真相を解明していくにあたって、衝撃があまりなく、タメのようなものが足りないような気がした。
だから、読んでいっても、『あ、そうなの』、『あれ、もうそこ教えちゃうの』といった感じで、淡々と進んでいくような感じがした。
ラストも、心動かされるようなものではなく、綺麗にまとめただけという感じがした。
全体的には、悪くはないし、病院内部の話や人間関係など、それなりにおもしろいと思える部分もあったが、少しパンチが足りないという印象をもった。


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33 グレイヴディッガー 高野和明 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
八神俊彦は殺人こそ犯さないものの、数々の悪行を重ねてきた、言わば小悪党だ。しかし、彼は改心することを心に決め、骨髄ドナーとなった。そして、骨髄移植を翌日に控えたまさにその時、彼は連続猟奇殺人事件に巻き込まれ、何者かに追い回されるはめになるが、自分の骨髄を待っている者のために、逃走しながらも、病院へと向かうのだった。

【感想】
八神の逃亡には制限がかなり多い。
翌日の午前中までに病院に行かねばならず、その上、お金はない、頼れる人はいない、さらには骨髄移植のために怪我をしてはいけない。
それでも、小悪党としての経験を生かし、さらに追っ手の正体を解明しながら逃亡する様は、かなりおもしろい。
そういった逃亡シーンに加え、随所に散りばめられたユーモアが、これまたいい味を出している。
このあたりの緩急が心地よく感じられた。
徐々に解明されていく謎もなかなかに衝撃的だが、一部謎のままで終わってしまった部分もあり、わずかにすっきりしない感じは残ったように思う。
それ以外では、特に非のうちどころもなく、設定段階からして、おもしろい作品なので、十分に満足できる1冊ではないだろうか。


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34 容疑者Xの献身 東野圭吾 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
数学教師である石神は、弁当屋に勤める靖子に好意を抱いていた。靖子は娘と2人で、石神の隣に住んでいたのだが、別れた夫が押しかけてきた時、はずみで殺してしまった。それに気付いた石神が、靖子たちのために、数学で培った論理的思考を駆使して、隠蔽工作を行った。第134回直木賞受賞作。

【感想】
最高。
この言葉に尽きる。
はっきり言って、それ以上、ごちゃごちゃと言いたくはないというのが、読後すぐの正直な感想である。
しかし、それではさすがに成り立たないので、無理やり分析することにする。
僕は東野作品の中で『秘密』こそ最高だと思っていた。
そして、全編を通しての『せつなさ』においては、この直木賞作品を読んだ後でも、『秘密』に軍配があがると思う。
しかし、この『容疑者Xの献身』は、ラストの『せつなさ』もすばらしいのだが、何よりトリックが見事というほかない。
複線の張り方、トリックの暴き方、さらには読者のだまし方、どれも巧妙ですばらしく、推理物の最高傑作と言える作品だと僕は思う。
今読みかけの本を放り出してでも、読んで欲しい作品である。


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35 メビウス・レター 北森鴻 ☆☆☆ 【あらすじ】
作家阿坂龍一郎のもとに数年前のとある事件を追跡した手紙が送られてきた。そして、阿坂の周りで奇妙なできごとが起こり始める。阿坂とその事件はどう関係しているのだろうか。

【感想】
はっきり言って、この小説は短気な人にはおすすめできない。
というのも、最初の方は特に、いろいろなことが隠されているせいか、ひじょうに読みづらい。
徐々に真相が明らかになってはくるが、現在と過去が入り混じり、人間関係もかなりごちゃごちゃしているので、ところどころ読み返さないと頭の中を整理できない。
かなり否定的に書きはしたが、終始、謎をひきずっているので、先へ先へと読みたくはなるし、文章自体はうまいのか、途中でやめようと思うこともなかった。
ただ、読後感としては、特に何も、といった感じだった。


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36 深紅 野沢尚 ☆☆☆ 【あらすじ】
秋葉家一家惨殺事件が起こった時、小学6年生の秋葉奏子は1人修学旅行に行っていて助かった。やがて奏子は、家族を殺した男に同じ年頃の娘がいることを知る。大学生になった奏子は、自分の正体を隠して、彼女に会いに行った。

【感想】
この小説は2つのパートに分けられると思う。
まず、一家惨殺事件パート。
この部分に関しては、ひじょうにおもしろいと思う。
特に序盤、家族を失った奏子の気持ちが見事に描き出されていて、涙が出そうなくらいにせつない。
さらに加害者側の事情も丁寧に描かれており、このパートに関して言えば、文句なく☆5つだ。
そして、もう1つのパートが、大学生の奏子が加害者の娘と会うパートだ。
この部分は、テーマとしてはひじょうに興味をそそられる。
被害者の娘と加害者の娘が出会った時、どうなってしまうのか。
しかし、このパートが、僕にとってはイマイチだった。
序盤のインパクトが強かったので、過度に期待をしたせいかもしれないが、とにかく、しりつぼみのような感じがしたのは確かで、ちょっと残念だった。
ただ、序盤は本当に良いので、後半は流して読むくらいの気持ちで、是非読んでみてもらいたいとは思う。


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37 最悪 奥田英朗 ☆☆☆ 【あらすじ】
鉄工所社長の信次郎、銀行員のみどり、ヤクザまがいの和也。全く関係のなかった3人の人生は、運命にもてあそばれるかのように、一瞬だけ交差する。

【感想】
主人公が3人なので、当然視点は3つ。
序盤は3人に接点がないので、1人1人の生活が描かれているが、それぞれに生活味が溢れており、三者三様のストーリーがしっかり楽しめる。
僕はちなみに信次郎のストーリーが一番好きである。
それは良いとして、やはり気になるのは無関係の3人がどういうふうに関係してくるのかであろう。
しかし、一瞬だけ交わる3人の運命は、かなり奇妙。
理解できなくもないが、かなり無理のある設定で、まあおもしろいと言えなくもないが、かなりおかしなやりとりがあり、緊迫感はあまりない。
ただ、最後にこの本の重みのあるタイトルを思い出した時、いろいろな意味で、してやられた感じはした。


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38 OUT
(上・下巻)
桐野夏生 ☆☆☆ 【あらすじ】
深夜の弁当工場で働く主婦たちは、それぞれが「こんな生活から抜け出したい」と思っていた。そんな中で起こったひとつの殺人事件。これは彼女たちがつらい日常から脱出するきっかけとなるのだろうか。

【感想】
メインとなる主婦が4人いる上に、周辺人物の視点からも描かれているので、視点はかなり多い。
視点が多い小説は、個人的にはあまり好きではないが、この小説では、それぞれが丁寧に描かれており、登場人物のキャラも立っていたと思う。
主婦たちの苦しい生活には共感することができた。
事件が起きた後も、狂った行動をとるが、理解はできるし、おもしろいと思った。
ただ、最後の方はあまりにも狂気がすごすぎて、理解できる範囲を超えてしまっているように僕は感じた。


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39 破線のマリス 野沢尚 ☆☆ 【あらすじ】
首都テレビのニュース番組『ナイン・トゥ・テン』には『事件検証』という人気コーナーがあった。そのコーナーの映像編集をしている遠藤瑤子のもとに、ある事件に関するテープを直接渡したいという電話があった。これが全ての始まりだった。

【感想】
この本にはテレビ局の裏側が描かれていて、メディアの在り方のようなものを考えさせられる。
しかし、そこが前面に押し出されていて、特に序盤ではメディア成長の歴史のようなものが書かれていたりするので、僕のような軽い気持ちで読もうとしている人間にはひじょうに退屈だった。
そこを過ぎれば、まあそれなりにミステリー小説といえなくもない。
一応、事件があり、仕掛けがあり、結末はそこそこ良かった。
ただ、事件の全貌がかなり見えづらい。
僕のようにさーっと読んでいっただけでは、かなりわかりづらいと思う。
じっくり考えながら読める人であれば、読んでみても良いかもしれないが、さーっと読みながら、小説の世界に引き込んでほしいという人は、読まない方が良いと僕は思う。


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40 手紙 東野圭吾 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
強盗殺人の兄を持つ武島直貴は、犯罪者の弟というレッテルを貼られ、苦しみながら生きなければならなかった。獄中の兄からは、毎月必ず手紙が送られてくる。直貴はどんな気持ちでその手紙を読むのだろうか。

【感想】
野沢尚の『深紅』は被害者の遺族を中心に描かれた作品だった。
そして、この『手紙』は加害者の弟を描いた作品である。
この作品の中で加害者の弟、直貴は悩みながら、幸せになれる道を必死で探している。
しかし、この作品の中で、直貴が選んだ道はどれも間違っているかのように描かれている。
作品の最後に直貴が選んだ道でさえ、正しい道かどうかはわからない。
だったら、加害者の親族はどうやって生きたらいいのか。
さらに、加害者の親族に僕自身が出会ったとして、どういう対応をするべきなのか。
この本を読み終わった今でもまだ、僕は答えを出せていない……
生きるって難しい……
まとめとしては、この作品はひじょうにせつないストーリーで、いろいろ考えさせられる良い作品ではあるが、小説よりもテーマが前に前に出てきてしまっているように思えたので、僕としての評価は☆4つにとどめておいた。


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41 柔らかな頬
(上・下巻)
桐野夏生 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
高校生のカスミは家出をして、東京に出てきた。やがて結婚して家庭をもつが、夫の友人である石山と不倫関係になる。カスミと石山はお互いの家族を連れて、北海道の別荘へ行くが、大胆にもそこで逢引きを重ねていた。その最中、カスミの娘が1人、行方不明になってしまう。第121回直木賞受賞作。

【感想】
この作家の作品は、日常の描写、登場人物ひとりひとりの描写が丁寧で、小説の世界にすんなりと入っていける。
ただし、この小説は、読み終わった瞬間にスッキリすることはできないと思う。
普通の推理小説のように、事件に対して明確な答えを与えてくれないのだ。
文庫本下巻の背表紙には、こう書いてある。
『真実という名のゴールを追い続ける人間の強さと輝きを描き切った最高傑作』。
これは、この作品をひじょうにうまく表現していると思う。
読者は、登場人物を通じて、真実を追い求めていく。
この作品では、その結果としての真実ではなく、真実を追い求める過程と真実を追い求める人間の内面にスポットが当てられていると言えるのではないだろうか。
読後にスッキリ感を求める人にはあまりおすすめできないが、読んだ後にあれこれ考えをめぐらせても良いという人は、是非読んでみてほしい。


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42 ひとり日和 青山七恵 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
ハタチのフリーターの女の子、知寿は、母の知人である71歳の吟子の家に居候としてあがりこみ、一緒に暮らすことになった。知寿は自分とは歳のかけ離れた吟子との生活に何を感じるのだろうか。第136回芥川賞受賞作。

【感想】
今時の女の子はこんな感じなのかも、と思わせてくれる作品。
僕は『今時の女の子』ではないが、妙に共感でき、リアリティーがあるように感じた。
自分は会ったこともないおばあさんの家に居候するということはあまりないかもしれないが、描かれているのはまさに『日常』。
その日常を知寿は淡々と過ごしてはいるが、実はどうやって生きるのが良いのかわからず、答えを求めてさまよっている。
そんな知寿が、人生の大先輩である吟子を見ることで、ほんの少しずつ成長していく感じが伝わってくる。
強烈なインパクトのある作品ではないが、じんわりとしたおもしろさがあると僕は思った。
読む人を選ばない作品だと思うので、まだ読んでいない人は是非読んでみてほしい。


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43 パーフェクトプラン 柳原慧 ☆☆☆☆ 【あらすじ】
身代金ゼロで5億円をせしめ、しかも犯罪ではない。そんなパーフェクトプランがたてられたが……第2回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

【感想】
この作品では、かなり登場人物が大目で、短時間に視点がコロコロと変わる。
感情移入がしづらいので、基本的に僕は好きではないのだが、この作品はおもしろいと思った。
幼児虐待、株価操作、ハッキング、代理母……この作品には、さまざまな社会問題が詰めこまれているうえに、それらをうまく組み合わせて練り上げられた計画はかなりおもしろい。
ただ、最後の方はある程度展開が読めてしまううえに、結末なんかも冷静に振り返ってみれば、特別どうということはないように思える。
しかし、スピード感あふれる描き方をしているので、勢いで一気に最後まで読めてしまう作品だと思う。


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44 川の深さは 福井晴敏 ☆☆☆ 【あらすじ】
「彼女を守る。それがおれの任務だ」。警察をやめ、ぐうたら警備員に成り下がっていた桃山が出会った少年はそう言い放った。

【感想】
評価が低めなのは、気楽に読める本ではないからだ。
背景にかなり政治的な要素を含んでいて、さらにその説明がまとめてズラーっと書かれていたりするので、僕みたいな人間にはちょっと読みづらい。
現に僕はけっこう読み飛ばした。
だからこの小説のバックグラウンドはほとんど理解していない。
ただ、そこを抜きにしたとしても、この小説はかなり楽しめると思う。
人物の描写はしっかりしていて、応援したくなるし、アクションシーンも迫力のある描写がされている。
政治的で小難しい話も苦にせず読める人にとっては、最高の作品と言えるのではないだろうか。


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45 幻夜 東野圭吾 ☆☆☆☆☆ 【あらすじ】
阪神淡路大震災の混乱の中、雅也は衝動的に人殺しをしてしまう。しかし、それをひとりの女が見ていた。

【感想】
文庫本で700ページをこえる超長編だが、最後まで飽きることなく楽しめた。
あるひとつの出来事を描くというより、登場人物の人生を長期に渡って描くことが、この東野圭吾という人はひじょうにうまいと思う。
だから、作品の中に入り込み、別の人生を体験することができる。
それは今作も含め、つらくせつないものが多いが、だからこそリアリティがあるのかもしれない。
この作品は、白夜行の第2部的な位置づけらしいのだが、ものすごい悪女と彼女に魅せられ強力する男という構図以外のつながりには気づくことができなかった。
一番の原因は、僕が白夜行を読んでから時間が経ちすぎていることだから、白夜行を読み返してみようかと思う。
ぼんやりとした記憶を利用して白夜行と比較すると、主人公の雅也目線で書かれている分、主人公の心理がわかって、幻夜の方が感情移入はしやすい。
ただ、作品としてのうまさや衝撃といったものは、白夜行の方が上だと思う。


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