小説(兼日記)9月後半版

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小次郎はその日、いつものように遅いお目覚めだった。
もちろんすでに咲羅もコイルも出かけてしまっている。

ふあ〜あ…

だらしなくあくびをしながらキッチンへ移動する。
そして、咲羅が作りおきしていった朝ごはんを温めなおしていつものようにむさぼり始めた

「ちょっと味噌汁が濃いな…」

温めなおしているのだから濃くなって当然なのだが…



ふあ〜あ…

小次郎はまた大きなあくびをした。
着替えて一応事務室の机に座りはしたものの、今日も依頼者のくる気配はない。

「おお、そういえば…」

小次郎はこの間レンタルしたビデオをまだ見ていないことに気付いた。

「そうそう、『冷静と情熱の間』。見たかったんだよな〜。」

小次郎は1人つぶやいてビデオを見始めた。
自宅兼事務所なので仕事も休憩も自分次第というお気楽な商売だ。
まあ依頼者がこなければの話だが…



………



「う〜ん…微妙だな…」

小次郎の感想は”微妙”
悪くはないのだが、ぐっとくるほどの感動はない。
どのシーンが良かった?と聞かれてもぱっと浮かぶシーンがない。
なんとなくすっきりしない後味の悪さみたいなものが残った。

そこで小次郎は気分転換に出かけることにした。
そのビデオを片手に…




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小次郎はとりあえずレンタルビデオ店へ行き、ビデオを返した。
また何か借りて行こうかとも思ったが、めぼしいものがなかったので、やめておいた。

土曜の昼下がりということもあり、人通りは多かった。
よくみると、半数以上の人が長袖を着ている。
小次郎は何とはなしに半袖を着ていたが、確かに少し肌寒い感じがした。

もう秋か…

小次郎はしみじみとして、そうつぶやいた。
小次郎は暑いのは嫌いなので、秋らしくなってくれるのは大歓迎なのだが、不思議なもので、なんとなく寂しい感じがする。

そんなことを考えていたら、ふと秋物の服がほしくなった。
そこで近くの洋服店に入ろうとしたのだが…

ドンッ

「おっと…」

店からでてきた誰かと軽くぶつかった。
その人物は深い帽子にサングラスといういでたちだった。

「すみません…」

小さな声でそれだけ言うとその人物は足早に立ち去った。
小次郎は不審に思いながらも店の中に入った。

泥棒〜!!

その声を聞いた瞬間、小次郎は走り出していた。
もちろんさっきぶつかった人物を追いかけるために…




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小次郎はとりあえずあの怪しい人物がむかった方向へ走り始めた。
すると、遠くの方で、やつが人気の少ない路地に入っていくのが見えた。

チャンス!!

小次郎はそう思った。
わざわざ人通りの少ない方に行ってくれるとは…

しかし、そううまくも行かなかった。
人通りが少ないということはむこうもこちらを発見しやすくなる。
まして、自分の方を見て走ってくる人物であれば、気付かない方がおかしい。

「…っ」

案の定むこうは気づいたらしく、走り出した。
しかし、小次郎は自分の足に自信をもっていた。
追いつけないはずがない。

確かに向こうの足は速くなかった。
小次郎の足をもってすれば、すぐに追いついたであろう。
直線であれば…

そう、この辺の路地は結構入り組んでいてやっかいなのだ。
まあいくら入り組んでいるといっても捕まるのは時間の問題であったが…

待ちやがれっ!!

そう叫ぶと同時に小次郎は飛びついた。




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キャッ!!

「キャッ?」

「ご、ごめんなさい!!お願いですから許してください!!」

女か…だが、女だからといって許すわけにはいかねえな。まあとりあえず盗った物を返しにいこうか。」

「え?」

「どんな理由があるのか知らんが万引きは良くない。」

「私、万引きなんかしてませんよ。」

「は?」

二人ともわけがわからないといった感じだった。

「じゃあ何で逃げたんだ?」

「私はあなたが強姦魔か何かだと思って…」

強姦魔!?冗談じゃない。オレはおまえが万引きしたと思ってだな…」

「しっ!!誰か来る。隠れて!!

「は?」

訳もわからず小次郎はひっぱられて近くの廃工場の中に入った。
すると二人の話す声が近づいてきた。

「…なんだかんだ言ってさオレ、昨日の試合見ちゃったよ。」

「昨日の試合ってまさかユベントス対フェイエノールトか?あれ朝の6時まで放送してたやつだろ。」

「ああ…だからもう死ぬほど眠くてさ…オレも最初は見る気なかったんだけどさ。まず昨日のダイジェストってことで、レアル対ローマの試合流したんだよね。それ見たらめちゃくちゃ興奮しちゃってさ。こりゃ見るしかないって感じで、眠い目をこすりながら朝まで見ちゃったよ。」

「ふえ〜ようやるわ。」

チャンピオンズリーグってさ、来年の5月まで続くわけよ。こりゃなんとか調整して、毎週見るしかないね。がんばれTBS!!って感じ…」

だんだんと声は遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。

「ふ〜。行ったみたいね。」

「何がどうなってんだ?」

小次郎はさっぱりわからないといった顔をした。




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「で、おじさんは誰?

生意気にも自分から名のりもせず、いきなり聞いてきた。

「おいおい。自分から名のるのが礼儀ってもんだろ。」

小次郎が言うのも無理はない。
しかし、そんなことは全然おかまいなしで…

「いいから。とにかく教えなさいよ。」

「はあ…ったく、最近のガキは…」

深いためいきをつきながらも小次郎は名刺を差し出した。
こういうガキには何を言っても疲れるだけだ…
そう小次郎は判断した。
探偵の勘というやつだ。

その女の子は名刺をじっくりと見ていた。
話しかたや雰囲気から察するとまだ中学生か高校生くらいであろう…
これも探偵の勘だ。

「ふ〜ん、探偵ね…」

女の子はそういうと、今度は小次郎の全身をなめるように見た。

「おまえ、かなり失礼だぞ。オレみたいにできた大人だからいいようなものの、普通のおっさんならもうとっくにお尻ペンペンしてるぞ。」

「おじさんって、かなり…」

ほっとけ!!とにかくオレのことはもういいだろ。そろそろその怪しげなサングラスと帽子とってもいいんじゃないか?そんでオレの納得のいくように説明してもらおうか。さもないと…」

今度は小次郎の目が怪しく光った




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だが、サングラスをかけていたせいか、女の子はその光に気付かなかったらしい。

「そうね。おじさん、悪い人じゃなさそうだから特別に教えてあげよっかな。」

どこでどう判断したのかわからないが、女の子はサングラスをはずし帽子をとった。
女の勘というやつだろうか。

「ん?どっかで見たような…」

「まだわからない?じゃあこれならどう?」

そう言うと女の子はアップにしていた髪をおろした。

ああっ!!おまえは…」

「ようやくわかったみたいね。」

「キャバクラで働いてるあけみちゃん!!

ズッ

いい反応をする娘だ。

誰よ、あけみって!!ってゆーか、あたしまだ15よ!!」

「いや〜最近の娘は歳をいつわって働いてるんだな〜。」

「あのねえ…」

思いっきり疲れた顔をした女の子を見て、小次郎は満足した。
ちょっとからかっただけで、小次郎は顔を見た瞬間に全てを理解していた。
まあこれでも一応探偵なのだ。

「で、遠子ちゃんはこれからどうすんの?」

名前知ってんじゃないのよ!!ったく、なんなの…このおじさんは…」

海野遠子…最近よくテレビにでているアイドルだ。
アイドルならば、帽子にサングラスをして買い物をしていてもおかしくはない。

「そっか、か。しょうがないな。じゃあおじさんと飯でも食いにいこうか。」

「は?なんであたしが見ず知らずのおじさんとせっかくのプライベートタイムをすごさなきゃいけないのよ…」

「ふーん…そんなこと言うんだ…」

「な、なによ…」

おっきな声出しちゃおっかな〜。」

「え?」

一瞬遠子は意味がわからなかった。
もし襲われたりして大きな声を出すのは自分の方ではないかと…
しかし、次の瞬間全てを把握した。
自分が何のために帽子にサングラスなどという怪しい格好をしていたのか…

「それって脅迫っていうんじゃないの?」

ニヤニヤしている小次郎にむかって遠子は言った。

「まあいいわ。ここで大声だされても困るし、しょうがないからつきあってあげるわよ。そのかわりおごってくれるんでしょうね?」

実はこのあと遠子に予定はなかった。
うちに帰っても誰もいないし、今日に限って友達もつかまらなかった。
うちに1人でいるよりはましかなと思ったのだ。

このおじさんちょっとおもしろそうだし…
好奇心の強い年頃でもある。

「天下のアイドルがけちなこといってるな…まあ飯代くらいは出すさ。」

遠子がまた怪しいいでたちになるのを待って、二人は街のほうに歩きだした。




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街に出ると、電気屋のモニターにZONEがうつっていた。

「おっ、そういえばZONEの新曲もうすぐだな。『証』だっけ?前回の『一雫』とは真逆でダークなイメージだよな。」

小次郎はZONEのファンである。

「それがまたかわいいのよね。今度会ったらあの歌詞のシークレットの部分、何て言ってるのか教えてもらおっと。」

どうやら遠子はZONEと知り合いらしい。

「ああ、あのミユちゃんが口だけ動かしてる部分か…あれはちゃんとした言葉になってんのか?毎回変えてるとかじゃねえだろうな…」

「そんなことはないでしょ。おじさん探偵なんだからそれぐらいすぐわかるんじゃないの?」

「ま、まあ本気出せばすぐにな。」

疑いの眼差しをむける遠子だったが、小次郎は知らん顔で続けた。

「それより、値段を変えてCDを3種類出すみたいだな。1000円の通常版。500円だけど1曲しか入っていない廉価版。それから1500円の特典つき。どれが一番売れると思う?」

「そうね。結構難しいところだと思うわよ。ファンならまあ一番高い特典つきを選ぶんだろうけど…」

コアなファンなら全部買うかもな。」

「そんな人はマレでしょ。最近はレンタルで済ます人が多いみたいよ。特にシングルはね。でも500円ならどうかな?」

「特典つきのやつがレンタルできるんだとしたら、結局買わないだろうな。ってことは、やっぱり特典つきが一番売れるんじゃないか?」

「これからはホントのファンしかCDは買わないってことか…」

歌い手としてはどうよ?」

小次郎は聞いてみた。

「そうね。やっぱり売れるにこしたことはないけど、別にあたしとしてはレンタルでもかまわないわ。あたしは別にCDを売るために歌を歌ってるんじゃない。あたしの歌を聞いて何かを感じ取ってくれれば…って何でさっきあったばっかのおじさんにこんな話してんのよ!!」

「何怒ってんだ?」

あ〜もういい!!早く行くわよ!!」

そういって遠子は小次郎の前にでた。
しかし、ほんの一瞬ではあったが、小次郎には遠子の頬が赤く染まるのが見えた。




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「そういえば真希ちゃん卒業しちゃうのよね…」

ちょっと遅めのお昼ごはんを食べながら遠子は言った。
そのせいか、客はそれほど多くなかった。

「ああモーニング娘の後藤真希か。」

小次郎はすでに食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいた。

「まあオレはそんなに好きじゃないからどうでもいいけどな。ただ、あいつが抜けると歌がますます微妙になるんじゃねえか?」

「う〜ん…やっぱり真希ちゃんが抜けた穴は大きいわね。真希ちゃんのほうはソロで十分やっていけると思うけど。」

「そうだな。そろそろモーニング娘も限界かな…かわいさでごまかすにも限度があるからな。」

「そんな言い方ってないんじゃない?彼女たちだってがんばってるんだから。」

「おまえだってモーニング娘が落ちてくれた方がいいんじゃねえの?」

小次郎は意地の悪い目つきになって言った。

「そんなことないわ。全盛期のモーニング娘に勝ってこそ…って、だから何言わせんのよ!!」

小次郎はそんな遠子の目をまっすぐに見つめて言った。

「まあおまえなら越えられるかもな。」

「え?」

小次郎はシリアスな顔をたもってさらに言った。

「おまえのかわいらしさなら、おまえの透き通るような声なら、そしておまえのまっすぐな気持ちなら…」

「ちょ、ちょっと、え、なに、どうして…」

パニックになる遠子をみて小次郎は笑った。

「くっくっく…おもしれえやつだ。」

「なっ…なによ!!からかったの!?信じらんない!!」

怒る遠子に小次郎は微笑んで言った。

「怒った顔もかわいいよ。」

「え?」

「ちょっとトイレいってくるわ。」

「ちょ、ちょっと!!」

遠子の言葉を無視して小次郎は席をたった。

「なんなの?一体…」

訳がわからず混乱する遠子だった。




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「そういえば、サッカーの『育成の殿堂杯』、シュバルツ新潟は4チーム中3位だったらしいぜ。」

「マジで?オレは絶対ビリだと思ったけどな。」

「まあ2位と3位の差はかなり激しかったけどな。もう1チームとビリ争いをしてたってわけだ…」

「あそこの監督は経験浅いだろ?しょうがないさ。」

「また10月にもあるらしいぜ。こりずに出場するのかな?」

「出る気マンマンらしいよ。あの監督結構負けず嫌いだから…」

店を出る時すれ違った二人組がそんなことを話していた。

「わかってねえな。あのチームはこれから伸びるチームだぜ。なあ…」

そう言って小次郎は遠子のほうを振り返ったが、遠子はお腹をおさえてうずくまっていた。

「おい!!大丈夫か!?」

「…うん、最近たまにあるのよね。少し休めば大丈夫。」

そう遠子は言ったが、額には脂汗が浮かんでいた。

お腹の子が蹴ってるとか?

んなわけ…イタタタ…」

遠子はきっちりつっこみをいれようと思ったが、無理だった。

「ったく、ちゃんと医者行っとけよな。ほら。」

小次郎は遠子に背中をみせてしゃがんだ。

「なによ?」

おんぶに決まってんだろ。早く乗れよ。」

いやよ!!そんなの…この歳にもなって恥ずかし…イタタタ…」

「んなこと言ってる場合か。どうせそんな格好してれば、顔はわかんねえだろ。」

「変なとこさわんないでよ…?」

「ば〜か。ガキには興味ねえんだよ。」

遠子は少し悩んだが、小次郎の首に手をまわした。
確かに帽子にサングラスなら顔はわからないだろうし、第一お腹の痛みがなかなかおさまりそうになかった。

「よっ…」

小次郎は遠子を背中にのせ、立ち上がった。

「あっ…」

遠子はなんだかなつかしいような感覚におそわれ、思わず声をだした。
痛みすら感じなくなった瞬間だった。

「どうかしたか?」

小次郎が尋ねた時には、その感覚は消え、すでに激しい痛みにおそわれていた。

「ちょっと、もう少し静かに歩けないの?」

遠子は苦しそうに言った。

「そんだけ憎まれ口がたたけりゃ大丈夫だ。」




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「おいおい、食べ放題だからって食いすぎだぞ。」

「いいじゃない…モゴモゴ…食べ放題なんだから…モゴモゴ…いっぱい食べたほうが…モゴモゴ…得でしょ。」

「そりゃそうだけど無理して食べて後からつらくなったんじゃ意味ない…」

ウッ…

「ったく…すいませ〜ん!!水ください!!メモリ入りで!!

「ゴキュゴキュ…ぷは〜。やっぱメモリ入りはおいしいわね。」

「なんせ256Mだからな。」

「そうね…あれ、イタ…お腹イタイ…お腹イタ〜イ!!!!!

ガバッ

「大丈夫?遠子?」

「あれ?お母さん?ここは…」

一瞬状況がわからなくなった遠子はきょろきょろと辺りを見回した。

「イタッ…」

その時遠子は気がついた。
お腹のあたりが痛いことも…ここが病院だということも…

「虫垂炎…俗に言う盲腸だって。もう…お腹痛いなら一言お母さんに言ってくれれば良かったのに…」

「ごめんなさい…ただの腹痛だと思ってたから…」

「でもそんなにひどい病気じゃなくてよかったわ。ちょうど手術できる先生の手があいててね。すぐに手術してもらったのよ。ここに運ばれた時は寝てたらしくて、検査が楽だったって先生言ってたわ。」

「寝てた…?あっ!!そういえば、ここに運んでくれた人は?」

遠子はあたりを見回したが、母親以外誰もいなかった。

「私が来た時にはもうすでにいなかったわ。お礼がいいたかったのにね。」

「そう…」

なぜだかちょっぴり寂しさを感じた遠子だった。
会話がとぎれたちょうどその時…

コンコン…

病室のドアをノックする音が聞こえた。
入ってきたのは小次郎…ではなく看護婦さんだった。

「あら、遠子ちゃん、もう起きたのね。具合はどう?」

「はい。ちょっと痛みますけど大丈夫です。」

「そう。それはよかったわ。一週間くらいで退院できるらしいわよ。いい機会だからゆっくり休んでいってね。」

「ありがとうございます。」

「そうそう、そういえば…」

帰りぎわに看護婦さんは何かを思い出したようだ。

「遠子ちゃんをここまで運んでくれた人が、遠子ちゃんが目覚めたらこれを渡してくれって。」

そう言って看護婦さんは1枚の紙切れをとりだした。
そこには…

謎の表が書かれていた。




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遠子は静かな部屋でその表を見つめていた。
母親は先に帰ってしまい、その個室には遠子1人が取り残されてしまった。

隣は誰かがお見舞いに来ているらしく、話し声がかすかにもれてくる。

「…レアル対ゲンクの試合見たんだけどさ、やっぱおもしろかったぜ。」

「いいな〜。オレ入院中だからそんな時間の試合見れねえよ。」

ジダンは出てなかったんだけどさ、全然戦力はおちないよな。ただ、昨日はフィーゴラウルがあんまり調子良くない感じだったな。まあそれでも6−0だから恐ろしい強さだよ。」

「そういえばゲンクの鈴木は?出場したの?」

「ああ。最後にちょっとだけな。一応シュートは1本うってたけど、枠の外。」

「まあそんなもんだろうな。ああ〜オレも早く退院してえ…」

そういえば、小次郎といる時もそんな話を聞いたような気がする。
紙ばかりを眺めていてもらちがあかないので、遠子は小次郎といる時のことを思い出してみることにした。

すると、すぐ思い当たることがあった。
そう、歩きながら話していたあの話題だ。
どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。

しかし、そこまではいいとして、その後は…
ひょっとしたら順番通りに…

「え…?どうして…?」

遠子は思わずつぶやいていた。




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遠子が気付いたのは周りのアルファベット4文字だ。
E,O,N,Z…並べ替えればZONEである。
そう、確かにZONEについて小次郎と歩きながらしゃべっていた。

そして、ZONEの順番どおりに間の文字を読んでいくと…



おまえのおやじはこんなだったか…そう読むことができる。

ひょっとしたら小次郎が見ず知らずの自分につきあってくれたのは、自分に父親がいないことを知っていて、一瞬でも父親がいるような感覚を味わわせたかったからだろうか。

確かに遠子の父親は遠子が幼い時に亡くなっていた。
しかし今日小次郎との会話の中で父親のことに触れた覚えはない。

「まさか…」

遠子は思い出した。
そういえば、デビューして間もないころ、マイナーなラジオ番組で一度だけ話したことがあった。
幼いころに父を亡くしたこと、そして父がいなくて少し寂しいということ…

遠子はもう一度その紙を見た。

おまえの親父はこんなだったか?

「あたしのお父さんは…もっとかっこよかったわよ…」

遠子はにっこりと微笑んだ。




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「あ〜疲れたな〜」

コイルは机につっぷしてつぶやいた。

「やだ〜コイルくん、おっさんみたいだよ〜」

ガキにはいわれたくねえな…
コイルはそんなことを考えたが口には出さなかった。

自分もガキなのだが…

ここはコイルの通う小学校。
そして今は休憩時間というわけだ。




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「さあ第4コーナーをぬけて先頭はショウナンカンプ。その外からアドマイヤコジーン並びかけてくる。間をわってビリーヴが…おっと入れてもらえず武豊は最内にいれた。さあ直線のたたきあい。後ろはちょっとはなれたか。まだ先頭はショウナンカンプ。内からビリーヴ。外からアドマイヤコジーン。ビリーヴ抜け出た。ビリーヴ!!勝ったのは最内ビリーヴと武豊。2着にとびこんだのはどうやら外アドマイヤコジーンのようです。」

「いや〜武豊うまいな〜。あそこで最内にいれるところもにくいね。テン乗りとかも関係ないもんな。まあビリーヴ自体強い馬なんだろうけど。ここでサンデーサイレンス産駒初のスプリントG1制覇だったんだよな…アドマイヤコジーンもよくやったな。6歳だろ。すごいよな〜。ショウナンカンプもいい逃げするな。プラス8キロは完全じゃなかったかな…」

先生〜!!

「どわっ!!入ってくる時はまずノックをだな…」

視聴覚室で1人競馬のビデオを見ていた2年1組担任の通称梅さんは2mほどふっとびながら言った。

「また競馬〜!?そのうちクビになるよ…」

小学生にあきれられる先生って一体…

ほっとけ!!で、何か用か?」

「そうそう大変なの!!教室でケンカが…」

「なに〜!!わかった!!すぐ行く!!」

そういって視聴覚室をとびだそうととした梅さんだったが…

「おっとちゃんと片付けていかないとな。クビになっちまう…」

「それどころじゃないでしょ!!ほら急いで急いで!!」

「ああ…クビになる〜!!」

小学生にひっぱられて、情けない声を出す梅さんであった。




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梅さんが教室に入るとそこは修羅場と化していた。
すでにそこには血まみれになった死体が2つ転がって…いるはずもない。
たかが小学生のケンカだ。

ただ、最近のガキは加減というものをしらない。
ここでもカッターなんぞをふりまわしていたらまさに血みどろの戦いになっていたかもしれないが、良識あるこの小学校のお子様たちはしっかりと素手で争っていた。
高校生くらいになると素手でも危ないのだが…

「はいはい、やめなさい。何があったんだ?先生に話してごらん。」

梅さんはやさしく言った。

「こいつが…こいつがオレのチョコボール勝手に食ったんです!!2個も!!」

片方のお子様が叫ぶように言った。

「こないだラムネやったからいいじゃんか!!2個!!」

もう1人のお子様も負けずに言った。

「ラムネの1個とチョコボールの1個は大きさが全然違うんですぅ!!」

大差はないと思うが…
それでも梅さんは穏やかに言った。

「じゃあどうしたら許してくれるんだ?」

「チョコボール2個返してくれたら。」

「な〜んだ、簡単じゃないか。ほら早く吐き出せ。」

チョコボールを食べたお子様に向かって梅さんは言った。

「は?」

チョコボールを食べたお子様以下クラスのみんなが唖然とした。

「しょうがないな。先生も手伝ってやるから。逆さにすれば出やすいだろ?」

そう言って梅さんはチョコボールを食べたお子様の足首をむんずとつかんだ。

「ちょっと待ってください。先生!!」

あわててコイルが止めに入った。

「胃の中で消化されて他の食べ物と混ざってしまってるからダメですよ!!」

的確なのかずれているのか微妙なところだ。
だが梅さんは…

「じゃあ利子つけて返すってことでいいだろ?」

「そうじゃなくて…あ〜もう!!」

このままでは教室が大惨事になってしまう!!
子供心にそう思ったコイルは切り札をだすことにした。

「学校にお菓子持ってきちゃいけないと思うんですけど!!」

教室は一瞬静まりかえった。
コイルは核心をついてしまったのだ…

梅さんに何か考えがあったかなかったかはであるが、とにかくケンカしていた二人が仲良く怒られて事件は解決した。




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