小説(兼日記)9月前半版

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「おいおい、なんだよ、これ!!世界恐慌じゃねえのか!?」

小次郎が悪態をつくのも無理はない。
日本、アメリカ、ヨーロッパ、それこそ世界各地の株価が同時に下がっている。

「あらあら。家の株は大丈夫なの?お父さん。」

「なんだ、咲羅。帰ってたのか…大丈夫なわけねえだろ。含み損が拡大する一方だぜ…」

「もう少し考えて買ってよね。家だって裕福じゃないんだから。」

ばかやろう!!こんなにさがるなんて誰も予想できたやつはいねえよ。」

「ふ〜ん…天下の上杉小次郎も株価は推理できないのね。」

「こんなもん推理じゃねえよ。たんなる推測だ。」

「たんなるいいわけじゃないの?」

バ、バカいうな!!推理と推測の違いはだな…」

「はいはい。じゃ、着替えてくるわね。」

「お、おい!!ちょ…ったく…」

だいぶ母親と似てきたな…と小次郎は思った。

ふあ〜あ…

小次郎は大きく伸びをした。
この事務所に依頼がくることは非常にまれだ。

ただいま〜。

小次郎が夕日を見て、たそがれていると後ろで声がした。

「おう、帰ったか、コイル。」

「ねえ、おじさん。これ、お外でおじさんに渡してって頼まれたんだけど…」

「ん?何だ?」

その紙切れにはこう書かれていた。


あのひ以来、あなたのことがわすれられません。
蟻とキリギリスのおはなしをしてくださった、あの講演すてき出した。
れいの松のところでおまちしています。


「なんじゃ、こりゃ?漢字の使い方おかしくねえか?つーか間違ってるし…『出した』じゃなくて『でした』だろ?しかもそんな講演した覚えねえぞ。おい、コイル。これおまえの友達が書いたんじゃねえのか?」

「ううん、違うよ。きれいなお姉さんからさっき受け取ったんだよ。」

「きれいなお姉さんねえ…バカな中学生か?おまえからみたらお姉さんだもんな。」

「違うよ。ハタチは超えてたんじゃないかな?」

「ハタチ超えたやつがこんな漢字間違うはずが…ん?」

わずかな沈黙の後…

「くっくっく…そういうことかよ。おい、コイル、ちょっとでかけてくる。夕食までには戻るって咲羅に言っといてくれ。」

そう言って小次郎が出て行こうとすると…

「おじさん、不倫するの?」

ゴン!!

小次郎の鉄拳がコイルの頭に直撃した。

「ったく…どっからそんな言葉覚えてきやがる…おっとやべえ」

ふえ、ふえ、ふえ〜ん!!

「なに、なにどうしたの?コイルくん?」

「おじさんが、おじさんがあああ〜!!」

「またお父さんがぶったのね。ちょっとお父さん!!

しかし小次郎はその時すでに、脱出していたのであった。




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「ほ〜。俊輔1点とったか…でもやっぱフリーキックか…こいつはトップ下はむかねえんじゃねえのか?周りをうまく使えるタイプじゃないだろ。」

小次郎は電気屋の店頭にあるテレビを見て1人つぶやいた。

「おっと、いけねえ。」

そう言ってその場を立ち去ろうとした時、中の様子がチラッと見えた。
バイトっぽい感じの男が、店長っぽい人に怒られているところだった。

「すいませんでした…目覚ましが鳴らなくて…」

ばかやろう!!こんな夕方に寝てんじゃねえ!!」

そんなことに小次郎が興味をもつはずもなく、とっとと歩いていった。
その小次郎が向かった先は…


小次郎はぐるりとあたりを見渡した。
それらしき人を探すために…
するとベンチに腰掛けている若い女性が目に入った。
しかもかなりの美形…
小次郎はさっそうと近づいていくと渋い声でこういった。

おじょうさん、その辺でお茶でもどうですか?」

「あら、さすが…」

ガン!!

ぐおっ!!

脳天にかかと落しをもろにうけ、小次郎は悶絶した。

お父さん!!一体、どういうことなの!!」

「咲羅…なんでおまえがここに?」

「コイルくんがお父さんが不倫するんだとかいうから、気になって後をつけてきたんじゃないの。そしたらやっぱり!!こんな若い人だまして!!いいと思ってるの!?」

「ばかやろう!!これはだな…」

「違うんです。私が頼んだんです。」

若い女性がわって入った。

「失礼だとは思ったんですけど、暗号文を書いてそこの男の子に渡してもらったんです。」

その女性はコイルのほうを向いて言った。

「上杉さんがこの程度の暗号も解けないようなへっぽこ探偵だったら、他の人に頼もうと思ってたんです。」

「へっぽこって…」

小次郎のぼやきは無視して咲羅は不思議そうに言った。

「あれって暗号だったの?ちょっと変だったけどラブレターかと思った。」

「あんな文章、明らかにおかしいじゃねえか。」

そこでコイルが小声で口をはさんできた。

「でもこのお姉さんの言葉遣いも現におかしいよね。へっぽことか…」

「おまえは明らかに失礼だぞ…」

小次郎はまた鉄拳をおみまいしようかと思ったが、咲羅がいることに気付きやめておいた。
もうかかと落しはごめんだからだ。

「まあいいわ。じゃあとにかくその文章がどんな暗号なのかってことを説明してよね。でないと納得しないんだから。」

「ったく、しょうがねえな。おじょうさん、すいませんね。うちのバカ娘にちょっと説明…イテテテテテテ!!

「誰がバカ娘よ!!」

思いっきり尻をつねられた小次郎だった。




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「わかった、わかった。いってえな〜もう…え〜と…」

そういって小次郎は例の紙をとりだした。


あのひ以来、あなたのことがわすれられません。
蟻とキリギリスのおはなしをしてくださった、あの講演すてき出した。
れいの松のところでおまちしています。


咲羅はさっと一読した。

「確かに変な文章ね。みたいな難しい漢字を使っているかと思えば、簡単な漢字を使っていなかったり、間違えたりしてる…」

「そう、その通り。誰でもそこには気付くわな。なんのヒントもない暗号には不自然さが必要なんだ。」

「そっか。おかしいなと思ってもらえなければ、暗号に気付いてもらえないものね。」

「ああ。そして、その不自然な部分が最大のヒントであることも確かだ。つまり今回の場合は漢字だな。漢字だけを見てみな。自ずと答えは浮かび上がってくる。」

「漢字っていうと…」


あのひ以来、あなたのことがわすれられません。
とキリギリスのおはなしをしてくださった、あの講演すてきした。
れいの
のところでおまちしています。


「以来、蟻、講演、出、松…ああ!!声にだしてみるとよくわかる!!」

「そう。正しい文にすると…『依頼有り。公園で待つ。』ってわけだ。この辺に公園はここしかないからな。」

「へえ〜。なるほどね。」

「ったく…仕事できてるってのになんでかかと落しなんぞ、くらわなきゃならねえんだ?」

「お父さんが『お茶でも…』とか紛らわしいこというからじゃない。」

「いやいやあまりにもかわいいおじょうさんだったから、つい宇多田ヒカルと16歳年上の写真家みたいな結婚にまで発展したらな〜なんて…」

ドボッ!!

ゲホッ!!み、みぞおちに…」

「大丈夫ですか?」

心配そうに依頼者であるお姉さんが小次郎に近寄った。

「ええ、慣れてますから…おっと、すいませんね。おじょうさん、お待たせしちゃって。」

真面目な顔になって小次郎は依頼者のほうにむきなおった。

「いいえ、なかなかお茶目な会話で楽しませていただきましたわ。」

「お茶目って…ああそれより本題に入りましょう。それで依頼というのは…」

「はい…実は…

「実は?」

「家の五郎がいなくなちゃったんです。それで是非探してもらいたいと…」

「ほう、行方不明ですか?それで五郎くんというのは?」

小次郎は手帳をとりだした。

「そうですね、特徴は…目が2つあって鼻が1つ…

バカにしてるんですか…?

「えっ?」

しかしそのお姉さんは真顔だった。
こわっ!!と小次郎は思ったのでそれ以上はつっこまず、とりあえず先をつづけさせた。

「えっと後は、口が1つでしょ、耳が2つ、足が4本、それから尻尾が…

「ふむふむ足が4本で尻尾…っておい!!まさか五郎って犬!?そんなもんのためにわざわざ暗号使ってまで探偵に頼むんじゃねえ!!」

はからずもノリつっこみをしてしまった小次郎であったが、さらに衝撃的な事実をこのお姉さんはしれっといってのけた。

「犬じゃないですよ〜イグアナです。」

よけい悪いわ〜!!あほくさ…帰ろっと…」

「え〜帰っちゃうんですか…そんなこというと泣いちゃいますよ。」

「は?」

「ほらもう涙がにじんできた…そろそろ本格的に…」

「だ〜わかった。わかったから、泣くのは勘弁してくれ。」

こういう時たとえ嘘泣きでも、女の子が泣いている状況というのは勘違いされる可能性が極めて高いことを小次郎はよく知っていた。
そして、探偵という稼業は信用というものがかなり重要であることも心得ていた。
それと同時にこの娘はどこかねじが一本抜けてはいるが、かなりの強者だと感じた。
ひょっとしたら、普通に頼んでもイグアナ探しを手伝ってくれる人などいないであろうことを見越して、暗号を使うことで探偵である自分の気をひき、ここまで誘いだしたのかもしれない。

「じゃあ一緒に五郎探してくれます?」

「ったく…しょうがねえなあ。おい、咲羅、コイル手伝…」

そういいながら小次郎は振り向いたがそこにはもう誰もいなかった。

薄情者〜!!!!!

小次郎の声が夕焼けの空にむなしくひびきわたった…




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「あっ、おかえりなさい。結構時間かかったのね。」

「まったく…えらい目にあったぜ…あのアマ、探偵に依頼すんのに1000円しかもっていやがらなかった!!」

「まあ探偵っぽい仕事じゃなかったんだからしょうがないじゃない。」

「あのアマ、次にあった時は………ウヘ

「お父さん、もともといやらしい顔がさらにいやらしい顔になってたわよ。」

ほっとけ!!…って、ああ!!

小次郎は時計を見て絶望の声をあげた。

「なんてこった!!『愛なんていらねえよ、夏』が終わっちまってるじゃねえか!!今レイジがいい感じになってきて、一番おもしろいとこなのに〜!!なんでだ〜!!シットゥ!!」

「まあ、過ぎてしまったことはしょうがないじゃない。それよりご飯食べちゃってよね。片付かないんだから。」

「くっそ〜!!人事だと思って冷静ぶりやがって!!」

その時小次郎は自分のズボンがひっぱられるのを感じた。

「なんだ、コイル?今はおまえをかまう気力もねえぞ…」

小次郎は力なくそう言った。
しかし、次のコイルの言葉が、小次郎のテンションを急上昇させた。

「ボク、ビデオにとったよ。」

「ホントか!?でかしたコイル!!おまえはホントにいい子だな〜。」

小次郎はコイルの頭をなでまくり、今日の稼ぎの全てである1000円を気前よく献上した。
コイルは激しく喜び、小躍りしながらぶたさん貯金箱にいれた。

「お〜し、んじゃ早速見るとすっか!!」

小次郎はビデオを巻き戻し再生した。

あ〜あ〜あああああ〜

「………って、これ『北の国から』じゃねえか〜!!チャンネル間違ってんじゃねえ!!!!!

この後1000円をめぐる小次郎とコイルの争いがあり、その争いも咲羅が小次郎の延髄に後ろ回し蹴りをいれることによって終結したことは言うまでもない…




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ピピッ、ピピッ、ピピッ…

咲羅の朝は早い。
咲羅くらいの年頃なら、夜更かしして、朝はお母さんに起こしてもらうまで起きない娘が多いだろう。
しかし、この家にはしばらく前からお母さんはいない。

「んっ…」

咲羅はカーテンを開け、大きく伸びをした。

「今日もいい天気ね。」

咲羅はさっと着替えをすませると、台所にたった
料理ももちろん咲羅の仕事だ。
というよりも家事全般ほとんど咲羅がやっている。
あの小次郎がやるはずもない。

「おはよう、咲羅お姉ちゃん。」

「おはよう、コイルくん。今日も自分で起きたのね。えらいえらい。」

コイルは小学生のわりにできた子供で、咲羅は助かっている。
まあ手のかかる子供だったら、預かることもなかっただろうが…
むしろ、いろいろとお手伝いをしてくれて、咲羅は助かっているくらいだ。

「じゃあお父さん起こしてきてくれる?」

「うん。今日はがんばってみる。」

そう言ってコイルは台所をでていった。


おじさん起きてよ!!ねえ、ねえったら!!」

「う〜ん…待てよ、待ってくれ…俺が悪かった…爆弾は勘弁して…ムニャムニャ…」

「何の夢みてんだろ…」

そんなことはどうでもいい。
なんとかして小次郎を起こさなくては…
このままではいつもと同じになってしまう。

「よーしこうなったら、昨日テレビで勉強したあれを使うしかない!!えーとこうして、こうして…」

コイルはプロレス技をかけようとしたのだが…小次郎は図らずも最終兵器を出してしまった。

バフッ!!

くさっ!!

毒ガスをまかれては、コイルとしても退散するしかなかった。


「は〜今日もダメだった…」

「そう…まったくしょうがないわね。じゃあ顔洗って着替えてきなさい。それまでに朝ごはんつくっておくから。」

「は〜い。」

「ふう…お父さんにはまた作りおきしておくしかないわね。」

小次郎は大抵それをブランチとして食べるのであった。

そんなんでやっていけてるところがすごい…


「じゃあ、いってくるからね。」

「う〜ん、ダメだ…爆弾は食えねえ…」

咲羅はいつものように小次郎に声をかけたが、いつものように寝言を言うばかりであった。

「じゃあ行こっか、コイルくん。」

そして二人はいつものように学校にでかけた。


咲羅〜!!

「あら、縁子。おはよう。」

「おはよう、咲羅。コイルくんも。」

「おはよう、縁子お姉ちゃん。」

「あいかわらずいい子ね〜。」

縁子はコイルの頭をなでた

田中縁子(よりこ)…咲羅の同級生で親友。ちょっと変わった感じの女の子。

「うちの手伝いとかもよくしてくれて助かってるのよ。」

「へえ〜。えらいのね。ちょっと大人びてる感じかな。」

「でも、お風呂は苦手みたいなのよね。だから一緒に入ってあげてるの。」

「え〜そうなの?こんな大人びた子が?…あ、ひょっとして…

あ!!ボクそういえばお友達と約束してたんだ。だから先に行くね。」

「ちょ、ちょっと、コイルくん!?」

そういうとコイルは走っていってしまった。

「ふ〜ん、これはますます怪しいわね。」

「何が?」

「あんた、あいかわらず鈍いわね。ひょっとしたら、あんたと一緒にお風呂入りたいからお風呂が苦手なふりしてんじゃないかってこと。」

「え〜、そんなことないんじゃない?」

「いやいや、わかんないわよ。あのタイミングで友達との約束をもちだしたのも逃げる口実かもしれないしね。」

「考えすぎよ〜。でもまあ私と一緒に入りたいっていうなら、好かれてるってことだからいいことじゃない?」

すると縁子はいやらしい目つきになって…

「バカね〜最近の子はませてるんだから…いろんなとこジロジロ見られてるかもしれないわよ。」

ヤだ、ちょっと縁子!!変なこと言わないでよ!!一緒に入りづらくなるじゃない!!」

「へっへ〜。冗談よ、冗談。いくらなんでも小学2年生でそれはないわよね。」

「うん、そんなことないわ。絶対…」

咲羅は自分に言い聞かせるようにそう言った。

「そんなことより、話は変わるんだけどさ〜。」

「なに?」

「あたしこないだホームページつくったって言ったでしょ。そんでね、昨日検索エンジンで検索してみたら、見事ひっかかったのよ!!」

「ふ〜ん…それってすごいことなの?」

「あったりまえじゃない!!これであたしのサイトが超有名になる日も遠くはないわ!!」

「でもなんのサイトつくったの?」

「もちろんネトアよ、ネトア。知ってる?ネットアイドルのことよ。あ〜楽しみだわ。愚かな下僕どもがそれぞれ思いつく限りの素敵な言葉をあたしに投げかけるの。そしてそれを一蹴するあたし…あ〜考えるだけでゾクゾクするわ〜!!」

「………」

こんな娘と親友でいいのかと自分で自分に問いかける咲羅であった。




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「そうそう、そういえば今日転校生がくるらしいじゃない?」

下駄箱の前で靴を脱ぎながら縁子が言った。

「そういえば昨日先生がそんなこといってたわね。」

咲羅はそう言うと少し遠くを見つめるようなそぶりを見せた。

転校…か…

それを見逃す縁子ではない。

「ははーん、あいつのこと考えてたんでしょ。」

ウリウリとばかりにひじで咲羅をつっついた。

え、えっ!!

顔赤くしちゃって、かっわい〜。あんたってホントわかりやすいわよね。」

「そ、そんなこと…知らない!!

「ちょ、ちょっと待ってよ〜!!咲羅ってば〜!!」

咲羅は無視して教室に向かった。


「おい、聞いたか!!タニノギムレット引退だってよ!!」

マジかよ!!結構いい馬だったのにな〜。でもあの馬買いづらくなかった?だって距離適正とかいまいちわかんなかったぜ。」

「まあな。俺もダービーの2400は長すぎると思って買わなかったからな〜。」

クラスの男子はどうやら競馬の話をしているらしい。
高校生なのに不謹慎な…

しかし咲羅はそんな話に全く興味がなかった
窓の外を眺めてボーっとしていた。

あいつどうしてるかな…
転校先でもうまくやってるかな…

メールとかしてないの?」

「う〜ん、あいつメールとかあんまり好きじゃないのよね。そりゃたまにはするけどさ…結構そっけなか…って何言わせんのよ!!縁子!!」

「なるほど、なるほど。そっけないってか…そりゃあ女だね。うん。その辺の話はしたことあるの?」

「か、関係ないもん。ただの幼馴染なんだから…」

「はっは〜。強がっちゃって。じゃあお聞きしますけど、どうしてこんなにおもてになる咲羅さんともあろう御方が彼氏の1人もつくらないんでございましょうかねえ?」

「そ、それは…」

ガラッ!!

「チッ、いいとこなのに…」

咲羅は内心ほっとするとともにグッドタイミングで来てくれた先生に感謝するのだった。




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「今日は初めに転校生を紹介する。白鷺(しらさぎ)くん、入っていいぞ。」

ガラッ

キャ〜、かっこいい!!

女の子の声があちこちでとびかった。
そういう時、男の子は大抵むすっとしているものだ。

「はいはい、静かに。じゃあ軽く自己紹介してやってくれ。」

「はい。白鷺栄治といいます。よろしくお願いします。」

「うむ、じゃあ白鷺の席はあそこだ。」

先生が指差したところは咲羅の後ろの席であった。


咲羅のクラスのホームルームは長い。
担任が話し好きなのだ。
今日も生徒にとってはどうでもいいことをベラベラとしゃべりまくっていた。

「…昨日は先生仲間に強く誘われてな、いや先生は断ったんだぞ。だが結局押しに負けて飲みにいったんだ。しっかし、いざそういう場に行ってしまうとダメだな。飲んじゃうな。またこの店の日本酒がうまくてな〜。ついつい飲みすぎちゃったよ。まあ先生はワインも好きなんだけどな。先生に賄賂贈るときは日本酒かワインをだな…」

そんなことをダラダラ話しているうちに休憩時間も終わり、1時間目が始まってしまう。

ガラッ

1時間目の先生が入ってきてようやく担任は話をやめる。

「おっと、じゃあそういうわけで授業がんばるように。」

どういうわけなんだと聞きたいくらいだが、担任はそう言うと教室を出て行った。
毎日こんな感じだ。


授業が始まってしばらくした時、咲羅はツンツンと背中をつっつかれるような感じがした。

「今日土曜日でしょ。授業終わったら遊びにいかない?

咲羅が振り返ってみると、白鷺はいきなりそんなことを言い出した。

「そういうのは授業が終わってからにしてくれない?」

咲羅は格別真面目な生徒ではなかったが、授業中に話しかけられるのは嫌いだった。

へえ…

驚きの声をあげる白鷺を尻目に、咲羅はさっさと前を向いてしまった。


授業が終わると同時にクラスの女子の大半が白鷺の周りに集まって質問を浴びせかけた。
そんな女子達に押し出されるような格好で咲羅は席を立たざるをえなかった。

「縁…」

咲羅は縁子を誘って屋上にでも行こうと思ったのだが、縁子は手帳片手に最前線で質問を浴びせていた。

「ふう…」

深いため息を1つつくと咲羅は1人屋上に向かった。


「はあ…」

屋上で遠くを見つめながら咲羅はまたため息をついた。
今度はもちろん”あいつ”のことを思ってだ。

あいつなら転校先でも白鷺のようにいきなり女の子たちにもてはやされるということはないだろう。
ルックスが特にいいわけでもないし、話が上手なわけでもない。
でも…

「こんなところで何をしてるんだい?」

後ろで声がしたので振り返ってみると、そこには白鷺がいた。

「あなたこそよく抜けてこれたわね。」

トイレに行くといえばさすがに女の子はついてこれないさ。」

「で、私になにか用?」

「はは、冷たいんだね。僕が他の女の子たちを振り切ってまで君のところに来たってことは…」

そこまでだ!!




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登場のタイミングはまあまあかっこよかったのだが、やってきたのはジャイアン風の男だった。

「剛間くん…」

剛間毅(ごうまつよし)…この学校の番長的存在。一度咲羅に告白したことがある。もちろん相手にされなかったが、いまだあきらめきれずにいる。そのおかげで、以前より咲羅にいいよってくる男は減った。

「おい、おまえ。ちょっとツラかせや。」

剛間は白鷺をにらみつけながら言ったが、白鷺は特におじけずいたそぶりもみせなかった。

「僕に何か用かい?僕は彼女に用があるんだ。話があるならここで頼むよ。」

ンだと〜、コラ!!なめやがって!!」

「ふう〜。」

白鷺は肩をすくめると財布をとりだした。

「ほら、じゃあこれでどこか行ってよ。」

そう言って札束を抜き出すと剛間の前につきつけた。

…ざけてんじゃねえぞ!!

剛間は白鷺の胸倉をつかんだ。
白鷺の細い体は地面から浮かび上がりそうになったが…

「そのへんにしとけよ…」

苦しそうな声で白鷺は言った。

「僕のパパに頼めば君の家族を路頭に迷わすことなんて簡単なんだよ。」

「なに!?」

剛間の手が少しゆるんだ。

白鷺グループっていえばいくら無知なおまえでも名前ぐらいは聞いたことがあるだろう?さあわかったらさっさとこの手を離せ!!」

「くっ…」

剛間は手を離した。
よく考えてみれば、一度ふられた女なんて関係ない…剛間はそう思ってしまったのだ。

ペッ

唾を吐きながら剛間は立ち去った。
床が汚れるだけで何の効果もなかったのだが…

「さあ、邪魔者もいなくなったことだし…」

白鷺がそういって振り返るのと、あっけにとられていた咲羅が我に返るのがほぼ同時だった。

最低!!

それだけ言い残すと咲羅は足早にその場を立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっとま…」

白鷺が追いかけようとしたところにちょうど白鷺を探していた女の子たちがこの屋上にやってきた。

あっ、こんなところにいた!!トイレにしては遅いなと思ったんですよ。白鷺様〜!!」

「は、はは…ちょっと空がみたくてね。」

いや〜ん、素敵。

何が素敵なんだかわからないが、あっという間に周りを囲まれてしまった白鷺であった。



授業中であるにもかかわらず、咲羅はまた窓の外を眺めてボーっとしていた。
今日はボーっとすることが多い。

さっきみたいにな状況になったら…あいつだったらどうしただろう…
あいつならきっと…



「あのね、シンちゃん…昨日夢をみたの。」

「へえ、咲羅が夢の話するなんてめずらしいな。」

「うん。いつもは全然みないのに、昨日はみたの。すっごく怖い夢。」

おばけでもみたのか?」

神慈は笑って言った。

「ううん、違うよ。」

咲羅は首を振って言った。

怖いおじさんがね、あの電気がビリビリッって流れるやつ…」

スタンガンか?」

「そう、それ。それをバチバチッってやりながら追いかけてくる夢…怖かった…

咲羅は小さな身体をブルッと震わせた。

「そっか、そりゃ怖いよな。」

「もしホントにそんなことになったらシンちゃん助けてくれる?」

「さあ、どうだろうな?」

え〜ヤだ!!絶対助けてくれるって言ってくんなきゃ、ヤだ!!」

「はっは〜。どうでしょうね、お姫様?」

そう言って神慈は駆け出した。

あ〜ん、待ってよ〜!!シンちゃ〜ん!!



「…杉、上杉…上杉!!

は、はい!?

「何をボーっとしてるんだ?黒板の問題やってみなさい。」

「あ、は、はい。」

そんなわけで咲羅の回想は一旦打ち切られたのであった。




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どうにか黒板の問題を解き咲羅は席に戻った。

はあ〜予習しといてよかった〜。
咲羅はほっとするとともにまたも回想モードに入っていくのだった。



そんな夢の話をしたのち、しばらくたってからのことだ。

バッ

キャ〜!!

『へっへ〜。咲羅のパンツはくまさんパンツ!!』

咲羅は悪ガキ三人組にからかわれていた。

「そして、これはなんでしょう?」

悪ガキの1人が手を高くあげた。

「あ〜!!それ、咲羅の筆箱!!返してよ!!」

咲羅が近寄ると…

「おっと、ほい、パス!!」

すぐに放り投げてパスをしてしまう。

「返して、返してよ〜!!」

咲羅の目にがにじみそうになった時…

「いいかげんに返してやれよ。」

シンちゃん…

「なんだ、おまえ。」

「咲羅が嫌がってんだろ。返してやれって言ってんだよ。」

「おまえには関係ねえだろ!!あっちいってろよ!!」

「返してやったらな。」

「あ?なめてんのか、こいつ。」

悪ガキどもは神慈に近寄ってきた。

「前から生意気だと思ってたんだ。やっちまうか?え?」

そういって神慈の脚を蹴った
すると神慈は…

うおおおおお!!!!!

大声をあげてとびかかっていった。

咲羅が急いで先生を呼びに行き、戻ってきた時には神慈はボロボロだった。
さすがに3対1では分が悪すぎた。
咲羅がつきそって二人で保健室へ行った。
そして、教室への帰り道、もうチャイムが鳴って、廊下はシーンとしていた。

ごめん…

そんな中、先に口を開いたのは神慈のほうだった。

「何でシンちゃんが謝るの?シンちゃんは何にも悪いことしてないよ。」

「いや、オレは…」

「オレは?」

神慈は続く言葉を飲み込んだ

「オレさ…空手習おうかと思うんだ。」

「え?」

「あんなやつらに負けないようにさ。」

「じゃあ、咲羅も習う。」

「え、いや、だって…」

「一緒に習えばきっと楽しいよ。」

最初は少しとまどった顔を見せた神慈だったが、無邪気な咲羅の笑顔を見てにっこり笑った

「そうだな。じゃあ一緒に習うか。」

うん!!



キーンコーン、カーンコーン

チャイムの音で咲羅は我に返った。

「…アメリカではテロからちょうど1年たったわけですが、今年は何も起こらなくてよかったですね。みなさんもまた月曜日に変わらず元気な姿をみせてくれることを祈ってます。以上、それでは日直…」

きり〜つ…

再びあてられることがなかったことを神に感謝する咲羅であった。




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授業終了と同時に女の子に囲まれた白鷺を尻目に咲羅はさっさと帰路についた。
幸い今日は空手部の練習はお休みである。

「ちょっと待ってよ、咲羅〜!!」

校門をでたあたりで縁子が走ってきた。

「あれ?白鷺くんへの質問はもういいの?」

「ああ、質問してるうちになんとなくいけ好かないやつだなって思えてきたのよね。まあなんとなくだけど…女の勘ってやつね。」

「ふ〜ん、まあ正解かもね。」

咲羅は小声で言った。

「ん?なんか言った?」

「ううん、なんでもない。それより何か食べてかない?」

「いいわね。じゃあいつもの店にしようよ。」

「オッケー。」

二人はその店をめざして歩き始めた。



「そういえば、最近タマちゃんの話題多いわよね。」

歩きながら縁子が言った。

「そうね。今はもう横浜のあたりなんでしょ?多摩川にいるうちに見にいけばよかったな…」

「まあわざわざ見にいくもんでもないと思うけどね。」

「あら、転校生には真っ先に飛びつくのにね。」

咲羅は皮肉まじりに言った。

「それとこれとは話が別よ。白鷺くんとならアバンチュールな恋に発展するかもしれないでしょ。でもアザラシとじゃね…」

「なんか比べる基準、おかしくない…?」

「そんなことないわよ。」

ふええええん!!

そんな世間話に花をさかせていると子供の泣き声が聞こえた。

「また新しいの買ってあげるから…」

お母さんらしき人がしきりになだめていたが、子供が泣きやむ様子はない。

「ヤだ、ヤだ!!あれがいいの。あのタマちゃん風船がいいの。」

そういって子供は上のほうを指差した。
確かにアザラシがプリントされている風船が木の枝にひっかかっていた。

「ちょっと縁子カバン持ってて。」

「いいけど…何する気?」

「もちろんあの風船をとるのよ。」

「ちょ、ちょっと、やめとき…」

縁子の言葉を最後まで聞かず、咲羅はゆっくりと走り始めた。
助走をつけて、木を蹴って、三角とびの要領で高くジャンプする気らしい。
しかし…

ビュッ

「え?」

咲羅を追い越して誰かが走っていった。
力強く木を蹴って、きれいにジャンプ。
そのまま風船をとってしっかりと着地…

ドテッ

失敗した…

「いてててて…おっと。はいよ、ボウズ。今度はしっかり持ってるんだぞ。」

「うん!!ありがとう、お兄ちゃん。」

「本当にありがとうございました。お怪我はありませんでしたか?」

「ええ、大丈夫です。ちょっと転んだだけですから。」

お母さんらしき人は何度もお礼を行ってから立ち去った。
すると、その男はパンパンと汚れを落としながら、咲羅のほうにやってきた。
そして、軽い感じでこう言った。

「よう、久しぶりだな、咲羅。」

し、神慈!?

あっけにとられて立ちつくしていた咲羅は驚きの声をあげた。

「それにしてもちょっとは考えろよな。そんな短いスカートで三角とびなんかしたら、お気に入りのくまさんパンツが丸見えだぞ。」

「くまさんパンツって…いつの話してんのよ!!

「なに、なに?くまさんパンツって?」

いきなり縁子がわって入ってきた。

「ああ、こいつの…イテッ!!

「余計なことは言わんでよろしい。」

思いっきり足を踏まれた神慈であった。

「さっすが、いいコンビネーションしてるわね。」

縁子はそっとつぶやいた。




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9/14版

結局三人でお昼ごはんを食べることになり、いきつけの店の前まで来た。

なつかしいな…半年ぶりくらいか…」

神慈がしみじみと言った。

「シンちゃんがいなくて、私、私…寂しかったわ〜!!

「ちょっと縁子!?」

「へへ〜。咲羅の気持ちを代弁してあげたのよ。」

「な…何言ってるの…私は別に…」

咲羅は口ごもったが、神慈はおかまいなしで…

じゃれてないで早く入ろうぜ。」

「そ、そうね…」

あまりにもあっさりした反応で、ちょっとがっかりした二人だった。



「そういえば、なんだかんだで聞いてなかったけど、どうして神慈がここにいるの?今日はむこうの学校休みなの?」

咲羅が思い出したように聞いた。

「ああ、そのことなんだけどな…話せば長くなるんだが…」

「まあいいじゃない。まだ時間かかりそうだし。」

縁子が厨房の方を見て言った。
さすがに土曜日というだけあって、店はそれなりに混んでいる。

「じゃあ話すけどな…親父が死んだんだ…」

神慈は突然そんなことをさらっと言ってのけた。

「えっ?おじさんが?」

咲羅はもちろん神慈の父親を知っている。

「ああ。ちょっとした事故でな。もう3,4ヶ月前かな…」

「どうして教えてくれなかったの?お葬式の手伝いくらいしたのに…」

咲羅は寂しそうに言った。

「そういうと思ってさ。わざわざ北海道まで手伝いに来てもらうのも気がひけてね。親父も騒々しいのあんまり好きじゃなかったからほんの身内だけでやったんだ。」

「そう…」

咲羅はなんとかそれだけ言った。
縁子は何も言わなかった。

「まあそんでオレは1人になっちまったわけで…」

神慈の母親は神慈がまだ幼いころに亡くなっている。

「とりあえず金稼がなきゃってことで、マグロ漁船とか乗ったわけよ。」

「マグロ漁船?」

「あたし知ってる。かなりきついけどお金はいっぱいもらえるってやつでしょ。」

縁子が口をはさんだ。

「ああ。なんかめちゃめちゃついててさ。今じゃ日本人はほとんど雇ってくれないらしいんだ。賃金の安い外国人使うから。ただ、オレの場合緊急で人手が欲しかったみたいでさ。さらに運が良かったことに、普通は早くても半年、長ければ1年半くらい船にのってなきゃいけないんだけど、毎日ありえないくらい大漁で3ヶ月ほどで戻ってこれたわけよ。」

神慈は一口水を飲んだ。

「まあその金と親父が残してくれた金をたすと、なんとか高校いけるかなってことになったんだけど、もともと親父の転勤であっちいったわけだから…」

戻ってくるの!?

咲羅はかなり大きな声を出したので、周りの客がいっせいに咲羅のほうを見た。

「バッカ、声がでかいんだよ。」

だって…

「で、結局こっち戻ってくるの?」

今度は縁子が聞いた。

「まあ、そういうことだな。」

神慈はちょっと照れ笑いを浮かべた。

またよろしく頼むよ。

「ちょっと私、トイレ行ってくる…」

そう言って咲羅は席をたった。

「ちょ、ちょっと…」

怪訝そうな顔で神慈が何か言おうとしたが、縁子が制した。

「まったく…鈍いわね。」

「え?」

うれしくて涙が出そうだったのよ。さ〜て、私もご飯の前にトイレにいっとこっかな。」

そう言って縁子も席をたった。




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咲羅と縁子が戻ってくると既に料理が運ばれていた。

「早くしないと冷めちまうぞ。」

「はい、はい。」

そんなこんなで三人はお昼ご飯を食べ始めた。



「そうそう、こないだボーリングいったらさ、咲羅ったら157とかだしたのよ。すごいと思わない?」

「ほう。」

「でも前に神慈は191とか出してたから、それから比べればね…」

「191!?そりゃすごいわ…でも女の子の記録としてはすごいでしょ?」

「ああ。」

「じゃあそれを証明するためにも、これからボーリングとかいかない?」

縁子が誘ったが…

「悪いけど今日はバイトがあるんだ。」

神慈はそっけなく断った。

「特別に認めてもらったんだ。さすがに働かないと食っていけないからな。」

咲羅たちの学校はバイトを禁止している。

「でもさっき着いたばっかなんでしょ?」

神慈の大きなバッグを見ながら咲羅は言った。

「まあな。でも引越し業者に頼んであるから部屋は軽く整理すればすむし、なによりも少しでも金稼いでおかないと学費が払えなくなるからな。」

「そっか…」

「ところで、どこに住む気なの?」

「ああ、少し落ち着いたら招待するよ。」



店を出たところで、神慈ととりあえずわかれた。
どうやら方向が逆らしい。

結局女二人でボーリングに行くのもどうかということになり、今日はおとなしく家に帰ることにした。
途中までは二人の帰る方向は一緒だ。

「でもさ、なんか神慈くんそっけなくない?」

縁子がそんなことを言った。

「昔からあんなもんよ。」

「え〜でもさ〜久しぶりに恋人に会ったんだからさ、もっといいリアクションくれてもいいんじゃない?」

「べ、別に、こ、恋人じゃないもん…」

「はあ…まったく。そんなこと言ってるからなんも進展しないのよ。」

「あっ、そういえば最近涼しくなったよね〜。寝やすくなってホント助かるわ〜。」

「そうやってすぐ話をそらす…」

縁子はジト目で咲羅を見たが、咲羅はあさってのほうをむいてしまった。



家に帰ると小次郎は外出中らしく、コイルもまだ帰っていないみたいだった。

「はあ…」

自分の部屋に戻ると咲羅はため息をついた。

「もうちょっとうれしそうにしてもいいじゃない…」

咲羅は机につっぷしてそうつぶやいた。
縁子にはああ言ったもののやはり気になっていた。

「やっぱりなんとも思ってないのかな…」

咲羅は神慈と二人で写っている写真を眺めていた。
しばらくそうしていたが、悩んでいてもしょうがないと思い、教科書類をカバンから出し始めた。
すると見慣れない紙袋が出てきた。

不思議に思い、紙袋をよく見てみると、なにやら小さな文字が書かれていた。

おまえにしか買ってなくてさ。

いいわけじみた言葉が一言、そこに書いてあった。

神慈…

中をあけると小さなマグロのキーホルダーが入っていた。
おせじにもかわいいとは言えなかったが、咲羅はまた涙があふれそうになった。

バカ…

一言そうつぶやくと、写真と一緒にそっと机の中にしまいこんだ。




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